青空@Archive
「気にするな。ノリだノリ」
 うぉいっ!
「ノリで人の名前が分かるくらいなら、僕の頭はとっくにそれを使って悪い奴に心臓麻痺なんかの罰を与えることを考えるのにフル回転だっての!」
「紫苑。君、なかなかどうして。非常に口が悪いな。すぐにでも治した方がいい。君みたいな子は特にな」
 そう言ってまたケラケラと笑う。
「うるさい! ほっとけ!」
「いいのか? でも、あんまり放置するといじけそうだからな」
 何だかこの男と口喧嘩をしても、のらりくらりとかわされて、ゆるりゆるりと反撃されて……全く勝てる気がしない。
 というか、とても疲れる……。
「よし、お互い自己紹介も終わったことだし、行きますか!」
 僕、いつ自己紹介なんてしましたっけ?
 男はそんな僕の冷たい視線を徹底的に紫外線の如くUVカットしてくださって、脱ぎ捨てたコートと帽子を素早く着直して立ち上がった。
「はぁ……まあいいや。もういいや。で? オキャクサン、青空なんかを探しに、一体どこに行くおつもりで?」
 さて、この変人は僕をどこに連れて行くと言ってくるのだろう。
 荒れ狂う大海原か、険しく鋭い山麓か、はたまた宇宙の果てか。

 僕の心の中の好奇心が首をもたげているのがわかる。
 最初からどこにも行くつもりは無かった。ただ、面白そうだったから、乗っかった振りをして話を聞いていただけなのだ。
 しかし、あの分厚い曇天から青空を覗かせようっていうんだ。この城戸と名乗った男が気違いでも、いったいどんな人知を超えたファンタジーな場所に行く予定なんだろう?
 男はニッコリ笑う。

「源次郎さんとこの病院に連れてってよ。お見舞しなきゃ」
 ――徒歩5分だった。
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