『春・夏・秋・冬』
「……夏って、やっぱりモテるよね~」

静かに椅子に腰を下ろし、春は苦笑する。

「山崎先輩が夏を好きだって噂、ホントかもね? なんか最近、一緒にいるところ良く見かけるんだ……」

「そうなの?」

「うん……」

悲しげな春の笑顔が痛々しくて、私は思わず席を立った。

「待ってて、春」

「え? 秋!?」

春の声を背に、私はオフィスを出た。

大切な春に、あんな辛そうな顔をさせたくなくて、ちゃんとした事実を突き止めようと思ったんだ。

事実を知ったところで、私に何が出来るのかは分からないけど……。でも、何かをせずにはいられなかった。

廊下を走ってエレベーターの前あたりまで来ると、ボソボソと話し声が聞こえた。それは階段の方からで……。

そちらに足を向けると、ちょうど開いたエレベーターから冬が降りてきた。

「あれ、秋?」

「あ、お疲れ様、冬!」

今は冬に構っていられない。

軽く手を上げると、足音を忍ばせて階段を下りていった。

一階分下りてからそっと下を覗き込むと、踊り場に夏と山崎先輩の姿があって、向かい合った2人は怖い顔をして話をしていた。

……何?

夏のあんな顔、見たことない……。

「ああ、その通りだ……」

いつもより低い声。

「そう。でも私は捕まったりしないわ」

山崎先輩も、いつもの穏やかな話し方ではなかった。研ぎ澄まされたナイフみたいに、鋭い声。

「悪あがきはよせ。どうせ逃げられない。証拠は全て報告済みだ」

……何の話をしているの?

もう少し声の聞こえるところへ……と足を踏み出したときだった。

いきなり後ろから誰かに抱きすくめられて、口を塞がれた。

「っ!?」

声を上げることも、振り返ることも出来ない。
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