『春・夏・秋・冬』
まったく抵抗出来ずに後ろへ引きずられていく。そこに、上から声が響いた。

「秋!!」

この声……冬?

さっきすれ違った私を、追いかけてきたの?

ホッとしたのも束の間、頭に強い衝撃を感じて、私の意識はそこで途絶えてしまった。

真っ暗になった世界に響くのは、冬の叫ぶ声と、夏の声。

そして、パアン、という、乾いた音──。





「……き、秋!」

名前を呼ばれてハッと目を開けると、霞んだ視界に冬の綺麗な顔が見えた。

「……ふ、ゆ?」

ズキズキ痛む側頭部に顔をしかめながら冬の名を呼ぶと、彼はホッとした表情を見せた。

「良かった秋、ずっと目を覚まさなかったから……」

安堵の溜息をついた冬の顔が、暗闇の中に消えていく。

慌てて身を起こそうとして、辺りがやけに暗いことに気付いた。

「私、どうしたの? ……ここは?」

身を起こすためについた手のひらから伝わるのは、冷たく濡れたコンクリートの感触。

ピタン、ピタン、と僅かに響く水音。

ツン、と鼻をつくかび臭い匂い。

「どこだかは分からない。ごめん、助けられなくて。僕まで捕まっちゃって……」

「え? ……どういう、こと?」

言いながら、最後の記憶が頭を過ぎった。

夏と山崎先輩の怖い顔。そして、何者かに襲われたこと。冬と夏の声と、乾いた音……。

「詳しいことは、僕も良く分からないんだけど……」

そう言って冬の向けた視線の先には、黒い塊が無数に蠢いていた。

ハッと息を呑んで、思わず冬の腕にしがみつく。

でも、目を凝らしてよく見たら、それは小さな子供たちや、女性たちで……。

恐ろしい化け物なんかじゃないことにホッとしたものの、こんな暗闇に大勢の人たちがいる奇妙な光景に、私は冬の腕から手を離せなかった。
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