12上の御曹司と女子高生は愛を育めない
道路を歩いているとクラクションが鳴り、私の少し先で車が停まる。
光生さんの車では無いが春日部さんが使う車でも無い。
誰だと身構えると、スーツを着た若い男性が降りてきて私の方に急ぎ足で来る。
「川井 紫央里さんですね?」
「そちらはどなたですか?」
フルネームで呼ばれたことに警戒すると、彼は焦ったようにスーツのポケットから名刺入れを出して一枚私に差し出した。
「私は光生様の秘書補佐をしている高田と申します。
今夜我が社の創立記念パーティーがあるのですが、ご友人の婚約パーティーとダブルブッキングしたことに気付かれ、川井さんに友人宛のカードを渡して欲しいと言づてを言いつかりました」
彼は自分の腕時計をちらちら見ている。
おかしい。
そんなこと、光生さんが私に頼むだろうか。
絶対に連絡をくれるはずだし、そもそもこの人に会ったことは無い。
名刺だって偽造の可能性だってある。
罠だ。
私は直感で答えが出ていた。
「お断りします。光生さんなら直接連絡してきますので」
高田さんはわざとらしいほどに驚いた顔をして、
「本当です!今緊急の会議が入って光生様は電話に出られません。そもそも電源を切っていますので。
それで慌てて私にこうするようにと」
「カードを渡すだけですよね?それなら高田さんが伺えば済むのでは」
「ご友人にその日恋人を紹介するとお話になさっていたそうで。
ですので直接川井さんが伺っても大丈夫とのことでした。
ご心配なら光生様に電話をなさってみては?」
彼は未だ時計を気にしながら私にそう勧めてきた。
ならかける方が早い。
だがスマホからは、今電波の届かない場所にいるか、という提携フレーズが聞こえてくるだけ。どうやら電源を切っているようだ。
「川井さん、私もすぐに創立記念パーティーで仕事をするように言われている中で光生様の個人的な事を頼まれて非常に困っているんです。
どんどん遅れれば上司に大目玉どころではありません。
とりあえず乗って下さい」
ちょっと!という私の声も無視し、車の後部座席に押し込められた。