12上の御曹司と女子高生は愛を育めない
「紫央里」
光生さんが私の名前を呼ぶだけなのに、何でこんなに妙な気持ちになるのだろう。
「無理矢理連れ出してしまってすまなかった。
だが、今日は付き合ってくれて楽しかった」
急に神妙な顔で謝罪したのかと思うと、28歳とは思えない照れくさそうな顔で視線をすぐに私から逸らしたそんな顔を見て、何かがサクッと胸に刺さった。
あ、なんか可愛い、と反射的に手を伸ばしそうになった自分に驚く。
「えっと。私も色々とありがとうございました」
私はそれだけ言って急いで車から降りた。
そのまま車を見ることも無く急いでマンションのエントランスに入れば、車のエンジン音が遠ざかる。
私はよくわからない感情をアピールする自分の胸に手を当て、落ち着いたのを確信してから家に入った。
ただいまぁと玄関で言えば、母親と妹がたまたま一緒に迎えに出てきて不思議に私を見た。
私の顔をじっと見ていた母親が心配そうに、
「紫央里、顔、赤いわよ、熱があるんじゃ無いの?」
「え?いや、無いよ。とりあえず汗掻いたからお風呂入って良い?」
「お父さんがもうすぐ出るから構わないけど熱測ってからになさい。風邪だとお風呂入らずに寝た方が良いから」
母親が未だに心配そうに言ってくる。
いや、ほんと熱なんて無いのに。
「お姉ちゃん、なんかあれでしょ、恋でもしてるんじゃない?」
「言って良い冗談と駄目なものがあるのは知っておきなさいよ」
私の言葉に妹は不満を言いながら口をとがらせ、母親が部屋に体温計を持ってきた。
大丈夫、少し暑かっただけ。だから顔が熱くて胸が少しドキドキとしているのだろう。
間違えても、あんなストーカーなお坊ちゃまにほだされてたまるものか。