12上の御曹司と女子高生は愛を育めない
「・・・・・・私は、あなたのオモチャでもお母さんでもありません」
肩に置いてある手を、音を立てて払いのけ、すぐ近くにあったホテルへのドアを開け中に入る。
今度は後ろから名前をも呼ばれない。足音もしない。
言い切った後、一切あの人の顔を見ることもしなかった。
「すみません、ここからの最寄り駅へはどうやって行けば良いか教えて頂きたいのですが」
ホテル入り口のレセプションに笑顔で尋ねれば、綺麗な女性スタッフがすぐに専用の地図を出し丁寧に教えてくれた。
ホテルを出て一人通りを歩く。最寄り駅まで10分くらいらしい。
既に暗くなったどんよりとした空を見上げ、私の頭も心も空っぽのような気持ちになっていた。
「川井様」
声に驚いてそちらを向けば、春日部さんが少し先に車を止め足早にこちらに来た。
「光生様よりご自宅にお送りするようにと言いつかりました」
「お断りします」
その横を通り過ぎようとすると再度名を呼ばれる。
「先ほど何があったのかは詳しく存じ上げていませんが、光生様自身、今のご自身の心境が良くわかっておられず上手くお伝えできないだけなのです」
「その様子だと光生さんが何を伝えたかはご存じなんですね。
ですが私は無理ですので結論は変わりません」
私は振り返り、春日部さんに視線を合わせる。