竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

神語り


 おや?
 まだいたのかい?

 その雰囲気だと、まだ納得いかない事があるようだね。

 ……そうだね、君はリーゼと番だった。
 それを魂割りされ、半身がもがれてさぞ辛い思いをしただろう。
 けれど、今は徐々に苦しみから解放されつつあるのではないか?

 魂は傷付くと自己修復を始めるんだ。
 君の魂はリーゼと分かたれアネモネと無理矢理くっつけられてしまった。
 そして馴染んでしまった。

 その間、リーゼの魂は自己修復を始めていた。
 彼女は人間だから半身が消えた事には気付かず、そのうち彼女の番となる者とくっつき馴染んでいったんだ。

 ただ、馴染んだとはいえ、二年くらいの短い間ではすぐに綻ぶから、君とアネモネは再び分かれてしまえたんだ。
 だが、リーゼはその間別の者と随分馴染んでしまい、再び交合しようとも君と番にはなれなかったんだよ。

 パズルのピースが変わると言えば分かりやすいかな?
 嵌まらないピースには隙間ができるだろう?
 だから、君とリーゼは再び番えなかったんだ。
 リコリーになった時にはもう既にリーゼは番と一体化してしまっていた。

 君のニオイが良く感じたのは番だった頃の名残だね。
 君にも覚えがあるだろう?

 リーゼを愛したのだから。



 魔女が許せない?

 魔女は人間でも獣人でも無いからね。
 基本的に享楽が好きなバケモノだよ。

 だが、そうだな。
 魔女にも反省を促さないといけないね。
 彼女が余計な事をしなければ、リーゼは死ななくて済んだんだものね。

 人の縁って不思議なものだよね。
 世の中には絶対出会っちゃいけない人間もいるんだよ。
 例えばだよ?
 極端な話、誰かと誰かが出会ったから、戦争が起きました。
 そういうものなんだ。

 君の場合は……。

 アネモネじゃなければ良かったかもしれないね。

 そう。

 リーゼを轢いた馬車は、アネモネの家から出ていた。
 連れ去られた領主の娘――アネモネを探して馬車を走らせていたんだ。
 突然飛び出してきたリーゼに馬が驚いて……。


 ああ、怒るよね。
 自分に対して?魔女に対して?

 ……どちらも、だね……。

 ではこうしよう。
 魔女を獣人に生まれ変わらせ、魂割りをしようか。
 自分のした事を身を持って体験させてあげよう。
 どれだけ他人を苦しめたのか、いかに自分が身勝手な事をしたのか、その身で体験してもらおう。

 ほら、見てごらん。

 ――ああ、ここは似て非なる異世界だよ。
 君たちの世界は滅んでしまったからね。

 新たな縁の魔女も魔女の素質ありだね。
 必ず魂割りをした番と出会えるように縁付けてるからね。
 魂割りをするとね、番ではなくなるんだよ。
 だから、強固な結び付きが無くなる。
 本来ならば愛し合えたはずなのに、何故か結ばれないんだ。
 それでも縁があれば出会ってしまう。
 獣人に生まれれば番が誰だか分かってしまう。

 ――けれど、番だった者は他と結ばれてしまう。
 それを転生しても毎回見なければならない。
 何度転生しても、他の者に奪われてしまう。

 まるで君のようにね。


 救いはあるのか?

 疲弊した魂は消滅するだけだよ。
 自ら消滅を望むか、自然に消えるか。
 なまじっか元魔女だっただけに全ての記憶を持っているみたいだし、いずれ輪廻の輪から離れるだろうね。


 ……ああ、自ら望んだらしいよ。

『魂砕き』をしたそうだ。


 番だからと言って、その愛にあぐらをかいてちゃいけないね。
 愛は永遠ではないのだから。


 君はどうする?

 リーゼを待つかい?
 それとも、新たに探すかい?

 人間としての生が長い君ならば、番に縛られずそれぞれの人生でそれぞれの伴侶を探すのも良いだろう。

 番の強固な絆も良いが、何もないから始めるのもまた楽しいものだろう?


 そろそろ時間かな?

 え、僕?
 僕は、まあ、そうだね。
 暇を持て余したその辺にいるおじさんだよ。
 ちょっと人のアレコレを好きにできる権利を持っているだけの、普通のおじさんだ。

 君が今後何かの魔女に出会う事があれば、その魔女の上司みたいなものかなぁ?

 あー、魔女はこりごり?

 まあ、そう言わずに。よし、特別に。

 時戻りの魔女を紹介してあげよう。
 彼女もタダでは時を戻さないけれどね。
 対価を差し出せば、その対価に見合った時を戻せる魔女だよ。

 彼女に頼るか頼らないかは、君に委ねるとしよう。



 御礼はいらないよ。
 むしろ不甲斐ない上司で申し訳無い。

 新たな縁の魔女には、享楽に任せて人の縁を操るような真似はさせないと約束するよ。


 さあ、もう行きなさい。

 次こそは、幸せな結末を……。

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