真実の愛は嘘で守って・・・。
「優李!」

「はっ!・・・」

「おい、優李!大丈夫か?!」

そこには私を心配そうに覗き込む楓がいた。

上がる息を落ち着けながら、あれが悪い夢だったと徐々に理解していく。

「大丈夫か?」

「うん、大丈夫。ちょっと悪い夢見ちゃった」

精一杯明るく振る舞ったつもりだったけど、楓には空元気だと見透かされたようで、今一番してほしくない提案をしてきた。

「俺の血、飲む?」

力の源である血を飲めば、私の体調が良くなると思っての提案だろうが、今の私には逆効果だ。

「いらない!」

「・・・ごめん」

反射的に出たその言葉は思った以上にきつく響いて、楓を傷つけてしまった。

違うの楓。特別なのは血じゃないの。

言えない言葉の代わりに、私はある我が儘を思いつく。

「血じゃなく水がほしい」

「分かった」

「口移しで」

「は?」と手が止まる楓。

「起き上がるのしんどいから口移しで飲ませて」

「何言ってんだよ。そんなの無理に決まってんだろ」

「なんで?ただ水飲ませてって言ってるだけでしょ?それとも楓、何か意識してるの?」

「違っ・・・」

意識してるのバレバレだけど、気づかないふりをする。

「じゃあ、早く飲ませて。喉渇いた」

そう言われた楓は、戸惑いながらも水を口に含み、ゆっくりと顔を近づけてくるので、それに合わせて私も口を開く。

そして楓の唇が触れたと同時に口内に水が流し込まれ、渇いた喉を潤していく。

がばっとすぐさま体を起こし、私から離れる楓。

そんな楓に「もう1口と」私はまたおねだりをする。

恨めしそうにこちらを見ながらも、今度は何か言うことはせず、再び口に水を含み私に飲ませてくれる。

口移しなんていう口実なんてなくても、楓とキスできたらいいのに。

私が本当に欲しいのは水でも血でもなくて、楓自身だよ。

そんな一生告げられない想いを私は水と一緒に飲み込んだ。
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