真実の愛は嘘で守って･･･。
人間より遥かに優れた力で、人間界をも支配するヴァンパイア。

人間とヴァンパイアの住む場所は分けられ、下等種族とされる人間は、時折、高貴なヴァンパイアへの献上品とされることもあり、俺もその一人だった。

伯爵の位を持つ月夜野家の末娘、月夜野 優李《つきよの ゆうり》の10歳の誕生日を祝う献上品として捧げられた俺は、この日、優李に血を吸いつくされて死ぬはずだった。

だけど、優李は俺の血を吸うことはなく、友人のように接し、側に置いた。

他のヴァンパイアが俺に蔑んだ目を向ける中、いつも優しく接してくれる優李に何かしてあげたくて、血が不味いと吸血を嫌がる優李に、ある時、自分の血をあげてみた。

すると、俺の血は口に合ったようで、それ以来、優李は俺以外の血を吸わなくなった。

優李曰く他の人の血は錆びた鉄の味で、俺の血だけが採れたての苺ジュースのように甘く美味しいのだそう。

人間の俺には血の味なんて分からないけれど、そう言われてから血を吸われている時だけ、優李の特別になれている気がする。

「楓、優李はちゃんと血を飲んでる？」

突然声を掛けられ、心臓が跳ねる。

「おはようございます、奥様。はい、毎日問題なく召し上がっています」

深く紅い瞳が不純な考えを見透かしてきそうで、無意識に息が止まる。

「そう、ならいいわ。碧色の力で暴走されたら困るけど、家のために力は失わないようにしてもらわないと。
それから、食事が終わったら私の部屋に来るように言ってちょうだい」

「承知しました」

頭を下げて彼女が立ち去るのを待つ。

実の娘に対してこの言い草。
優李が部屋で食事をしたい気持ちがよく分かる。
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