リナリアの花が散る頃に。
変わり果てた日常
ー今日の天気は雨ー
お母さんの機嫌がいいときは、暴力なんて物騒なものはない。
でも、機嫌の悪いときは。
「いやぁぁぁぁ!」
ダンダンダンッ。
ガチャガチャ。
「開けなさいっ!今すぐに開けてっ!」
今日はダメだ。一段とお母さんの機嫌が悪かったらしい。
多分、恋人に捨てられたのだろう。
「はい、お母さん。どうしたっ」
そう尋ねた瞬間、頬に激痛が走った。
せめて、最後まで言わせて欲しいのに。
「あんたのせいよっ」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
私はただただ謝り続けた。そしてやっと落ち着いたのかお母さんは私をそっと抱きしめて、ボソリと呟く。
「ごめんなさい、私ったら焦ってしまって」
「もう、寝なさい。おやすみ」
「おやすみなさい、お母さん」
部屋の扉が閉まると同時に、私は頬をゆっくりと撫でた。
「大丈夫、物語では幸せだから」
私は毎日欠かさず、薄暗い部屋で小説をかいてる。
物語は、自分が主人公になれるんだ。
何にでもなれる。
そして恋愛、青春、なんでもできるんだ。
小説の中の私は、幸せだから、大丈夫。
いつか私も、物語に書かれたような幸せが訪れるはず。
そんなことばかり考えて、月日が過ぎてゆくばかりだった。
今日こそ、変わって欲しい。そう思って私は無我夢中に終盤に差し掛かった物語を書き進めていく。
「できた!」
「これで、私も幸せだ」
今まで書きだめてきた小説が、今日になってやっと完成した。
やっとだ、やっと物語の中の私は幸せになれた。良かったぁ、よくやった私。
私は無数に重なり束になった原稿用紙を、ぎゅっと抱きしめた。
それじゃあおやすみ、今日の自分。
そして
幸せな私。