リナリアの花が散る頃に。


部屋に入り、ベットに座り込む。
説明書を取り出して、ベット一面に広げる。


説明書を目で追いながら、やっとの思いで電源を付けることができた。
使い方はある程度確認できたため、今度は説明書を見らずに操作してみる。


説明書を見ている時に、WiFiを繋ぐと書いてあったが全くもって意味がわからない。
なので、お母さんに聞きに行った。


設定が全部終わり、機能を理解したころには、もうすっかり日没を迎えていた。


お母さんに聞いたら、暇な時はネット上に上がっている動画をみたりするといいらしい。


「さやか、ご飯出来たわよ」


リビングからそう遠めの声が聞こえてきた。
咄嗟に私は、「わかった!」と返事をして、リビングに向かう。


その日の夕食は、私の好物のハンバーグだった。


「ねぇお母さん、ネットって危なくないの?」


「まぁ、危ないけど。ルールを守れば絶対に大丈夫よ」


「ただし。なにかあったら、すぐお母さんにいいなさい」


そう言ってお母さんは、ご飯を黙々と食べ進めるていた。
何だか初めての経験ばっかりで、胸が踊っている自分がいる。


今物凄く、幸せすぎて死にそう。


自由を手に入れたのは、私にとって叶わない願いだった。でも今は違う。


欲しいものを手に入れることができる。


「ご馳走様!じゃあちょっと動画?みてくるね」


「休憩しながらね〜」


ガチャ。


今まで暗かった自分の部屋が、今は物凄く明るく見えていた。
こんなに幸せでいいのだろうか。
お母さんに名前で呼ばれて、暴力はない。
おまけに、学校にも通うことができる。
スマホだって貰えたんだ。


でも。


それでも、度重なってできた傷や痣は消えるわけじゃない。
見る度に心が痛くて、怖くなる。


今日から、それらを克服できるのかもしれない。そう思うと、私が私で居られるんだ。



「暗いままじゃだめだ。動画でもみよう、えーっとどれだ‥‥‥」


休日の日。私は、初めて夜更かしをしてしまった。


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