高遠王子の秘密の件は、私だけが知っている
3
○校庭。ある日の体育の授業中。
今日の授業内容は球技。男子は紅白戦でサッカーをしている。サッカーボールを蹴り、華麗にゴールを決める高遠にクラスメイトの女子からは黄色い声援が沸き起こっている。
未来(相変わらずの文武両道、凄いねぇ……)
未来は声援の中に輪には入らず、少し離れたところでちあきと二人ボールを持って見学をしている。
未来(そんでもって女子をさり気なく褒めたりも出来る紳士なんだから、そりゃ人気もありますわよねぇ)
ゲームセンターからの帰り道「可愛い」と褒められたことをつい思い出して赤くなる未来。いかんいかんと頭を振っていると、なぜかパチリと高遠と目が合ってしまう。
すると高遠は、それまでツンと澄ましていた表情を崩し、キラキラとした満面の笑みで未来に向かって手を振りだす。
高遠「おーーーーい!かっこーーーーっ」
未来(うわあっ!!)
生徒達「えっ?王子……笑顔?!」
生徒達「かっこ……?かっこって?何?」
ザワつくクラスメイトらに「ど、どこかにカッコウでも居るのかな?鳥とも仲良しだなんて流石王子だよねっ!」と必死で誤魔化す未来。
横にいるちあきにも同意を求めていると、「危ない!」という声。声の方を振り返って見ると目の前には、誰かが蹴ったサッカーボールが高速で迫りくる。
咄嗟に避けるがバランスを崩して尻もちをついてしまうと、血相を変えた高遠が駆け付けてくる。
高遠「大丈夫?怪我とか起こしてない?」
返事を聞く前に、高遠は未来を抱き上げお姫様抱っこをする。
高遠「念の為、保険室に連れてくね」
周囲から悲鳴が上がる中、高遠に抱きかかえられていく未来。
そんな中、二人の後ろ姿をじっと見つめる人影が一つ。「この間から、何なんだよ……」との悔しそうな呟きは、周囲のざわつきに掻き消され、聞いている者は誰もいなかった。
――
場面転換
○学校の中。廊下
未来「た、高遠くん??私一人で歩けるよ?」
高遠「うん、でも万が一ってことがあるしね?」
未来「それに私、重いし!」
高遠「大丈夫。少ししか重くないから」
未来「ちょっ……!そこは嘘でも『重くないよ』って言ってよ!!」
とんでもない高遠の言い分に、真っ赤になってジタバタ抗議する未来。
高遠「ウソウソ。全然重くないよ」
ふんわり甘く笑いながらスタスタ歩き続ける高遠は、「それより二人きりでいる時は、俺のことは『けーにゃん』でしょ?」と、小さい子を叱るような仕草で、未来の顔を覗き込む。
高遠「次からは、ちゃんと呼んでね?」
未来「う……」
高遠「返事は?」
未来「わ、わかった……」
渋々頷きながら、未来は「けど」と高遠を見上げる。
未来「そもそもけーにゃんだって秘密の筈なのに、みんなの前で『かっこ』だなんて呼んでるじゃない」
高遠「だって、目があったらなんか嬉しくなっちゃって」
未来「えぇ――。なんていうのかけーにゃんって……大分乙女な思考だよね」
呆れた様に高遠を見つめる未来を気にすることなく、高遠は「そうかな?」と首を傾げる。
高遠「じゃ、保険室までもう少しだからしっかり掴まっててね?」
未来「……」
促されて未来は高遠の首に手を回し、大人しく保険室へと連れて行かれる。
――
場面転換
○昼休み。教室の中
(結局怪我も無く、保険室から戻った未来は一人遅れて着替えをした後教室に戻って来た。)
未来(全く……。王子の行動にはビックリさせられるな――)
キョロキョロと見渡すと高遠はまだ更衣室から戻っていない様子。席に戻ると未来は先に戻って趣味のイラスト(先程のお姫様抱っこの様子)を描いていたちあきに声をかけられる。
ちあき「大丈夫だった?」
未来「うん。大した怪我もなかったよ。……ところで」
チリチリとあちこちから感じる視線に、ヒソヒソ声で未来はちあきにある確認をする。
未来「私がいなくなってから、周りで何か言ってたりした?」
ちあき「ああ、まあね」
カースト最下層としては、波風立てず大人しく学校生活を送りたいところである。そんな中の先程のお姫様抱っこ、あれはいくらなんでもやり過ぎだろう。
やっぱりか、と頭を抱えていると、ちあきは慰めるように肩を叩く。
ちあき「ま、羨ましいだのなんだのって話だから、あんまり気にしないほうがいいよ。それよりむしろ」
ちあきが言い終わる前に、数人の女子が未来の前に仁王立ちする。
女子A「河原さんさあ、高遠くんと最近仲いいみたいだけど、何かあったの?」
未来「え?別に何もないよ?」
女子A「じゃあさっきのアレ何?なんの理由もないのにあんなことしてもらうなんて、おかしくない?」
未来「それは……目の前で転んだから、助けてくれたんじゃない?」
女子B「だったらこの間のは?高遠くんからわざわざノートなんて借りちゃってさ」
未来「ああ、あれは……前も説明したけど、私がうるさいからって黙らせる為に貸してくれたみたいだよ」
「なんでこんな地味な女に親切にするのか」と言わんばかりに口撃を受け、未来はなんとか受け答えをするが周囲は納得いっていない様子。
女子A「けどさあ――」
高遠「ねえ」
一触即発の空気の中、口を挟んできたのは教室に入ってきた高遠だった。
高遠「俺のしたことに、何か文句でもあるの?」
高遠が冷たい視線を投げかけると、女子AB共さっきまでの勢いは鳴りを潜め、代わりに嫌われまいとばかりに言い訳をし始める。
女子A「そうじゃないけど、でもこの間から河原さんばっかり優しくしてるから……」
高遠「だから何なの?」
女子A「それは……」
高遠「俺が誰に親切にしようと、関係ないでしょ?」
女子B「そうだけど……。けど、この間から高遠くんの様子がいつもと違うから……。河原さんに何か脅されたりしてるんじゃないかって、みんなそれを心配してるんだよ!」
高遠「は?脅されたりなんてしてないけど?」
女子A「じゃあなんで高遠くんは河原さんに優しくするの?一体どんな関係なの?!」
ほんの少し沈黙した後、ゆっくりと高遠は口を開く。
高遠「どんなって関係って……。そんなのただのクラスメイト……だけど?」
相手に威圧感のある視線を送ると、高遠はそのまま教室から出て行く。教室の中は気まずい空気が流れている。ちあきがこっそり「王子、怒ってたね」と耳打ちする。
未来「――ちょっと行ってくる」
未来は咄嗟に高遠の後を追いかけた。
――
場面転換
○屋外。人気のない校舎裏
高遠「くっそ……」
腹立たしそうに壁を叩く高遠を見つけた未来。
未来「けーにゃん……。大丈夫?」
高遠「かっこ……。ごめんね迷惑かけて」
未来「迷惑なんてそんな……。庇ってもらったのはこっちなのに」
色々な感情が溢れるのを必死で我慢している様な表情の高遠はため息を一つつくと、ぎこちない笑みを浮かべる。
高遠「……昔からそうなんだよ」
未来「え?」
高遠「俺が、自分のしたいことをしようとすると、いつも誰かに『俺らしくない』とか『イメージと違う』とか言われてさ」
遠くの緑を見ながら、話を続ける高遠。
高遠「俺らしい、って一体なんなんだろうね?考えてもわからないから色々面倒になって、素っ気無くしてたら『氷の王子』だとかなんとか今度は騒がれてさ。何なんだよ氷の王子って。俺はただの男子高生だっつーの」
高遠はくしゃりと前髪を掴むと、ズルズルとその場に座り込む。
未来「けーにゃんも、色々大変なんだね」
高遠「……ごめん。愚痴ばっかで」
未来「なんのなんの。友達だもん。愚痴も聞くし相談にものるし」
未来はその傍らに座り込むと青空を見上げる。
未来「けーにゃんはカッコいいし何でも出来るから、きっとみんなは夢を見たいんだろうね」
高遠「夢?」
未来「けーにゃんが漫画に出てくるような……例えばそう、パーフェクト超人マンなんだろうって、夢」
高遠「パーフェクト超人……マン……?」
未来「うん。でもさ、無理してまで期待を一身に背負わなくてもいいと思うよ。生身の人間はパーフェクト超人マンにはなれないんだから」
高遠「パーフェクト超人マン……」(顔を項垂れる)
未来「そう」(コクリと頷く)
未来は「いいこと言った!」と高遠の方を見ると、ぶるぶると体を震わせている。泣いているのだろうか。
未来「けーにゃん……?」
気遣わしげに声をかけると、もう駄目だとばかりに高遠はブハッと笑い出す。
高遠「パーフェクト超人マン……って何?なんなのそれ」
ツボに嵌った様子でヒーヒー笑う高遠に、未来は「え?何?なんで笑うの?!」とよくわからないがらも恥ずかしくなり、顔が徐々に赤くなる。
高遠は笑いすぎて涙が滲んだ目尻を拭うと、晴々とした顔で未来を見つめる。
高遠「沢山笑ったらなんか元気でてきたわ。かっこのお陰だよ。ありがとう」
未来「え、なんか複雑なんだけど……。どういたしまして」
高遠「それじゃそろそろ戻ろうか」
高遠は立ち上がると、吹っ切れたように伸びをして、座る未来に向かって手を差し伸べるのだった。
――
○帰り際
歩きながら、話をする二人。
未来「あのさ、これからもけーにゃんは今まで通りで居続けるの?」
高遠「どう転んでも周りがギャーギャー言うのは変わらないってわかったから、どうするかなあ。……けど、なんで?」
未来「あ、いやあ……。さっき、私の事『ただのクラスメイト』って言ったでしょ?」
高遠「それは……」
未来「自分からお願いしておいてなんだけど、けーにゃんからそう言われた時に、ちょっと寂しくなったっていうか」
高遠「それって……」
言いにくそうに目を伏せがちに話しをする未来は、何かを期待するように頬を染める高遠に気が付かない。
未来「私達って、友達だよね?」
高遠「え?あ、ああ。もちろん」
未来「けーにゃんは、私と可愛いものの話を学校でしても平気だったりする?」
高遠「大丈夫だけど……?」
未来は「よしわかった!」と何かを決断したような表情をする。
未来「けーにゃん。これからは学校でもドルラブとかの話をしよう!秘密の友達じゃなくて、普通の友達になろう!」
未来の決意表明が、自分の想像していたものとは違った高遠はほんの少しがっかりするが、未来の優しさもやっぱり嬉しくて顔をむず痒そうに歪ませる。
高遠「……これだからかっこはなあ……」
未来「え?何か言った?」
高遠「何でもないよ」
聞き返す未来に苦笑しながらその頭をワシャワシャと乱暴に撫で回す。
高遠「それじゃ改めて宜しく……と、言いたいところだけど、またさっきのみたいなことがあったらかっこがまた、嫌な思いをするかもしれないよ?」
未来「まあ、その時はその時でなんとかするよ」
高遠「なんとかって……」
力こぶを作って笑う未来の横で何か考え込む高遠。
高遠「かっこは俺の他に仲のいい男子はいたりする?」
未来「え?急に何?……まあ、いないけど」
高遠「じゃ、俺が一番の仲良し?」
未来「うん」
高遠「ほんとに?」
未来「ほんとに」
高遠「ほんとのほんとに?」
未来「ちょっと何なのさっきから?ほんとだってば!仲良しなのはけーにゃんだけだってば!」
意図のわからない質問をしつこくされて、逆ギレとも言えるような答え方をする未来に、なぜか満足そうな顔をする高遠。
高遠「そっか。わかった。なら……いいよね」
誰に確認するでもなく、一人呟く高遠。真剣な目で未来を見つめる。
高遠「じゃあ……俺がちゃんと未来を守るから」
未来「え?」
未来(今、私の名前で読んだ――?)
突然の呼び捨てにドキリと胸が跳ねる未来。高遠はフッと表情を和らげると「休み時間が終わるから」と教室へ急ぐように促すのだった。
――
○場面転換
教室内。
戻ってきた高遠と未来を見つけた女子ABは、駆け寄ってくる。
女子AB「高遠くん、さっきのことは……」
高遠「いいよ。こっちも言い過ぎたよ」
滅多に拝めないキラキラした笑顔を見せる高遠にポーっと見惚れる二人。
高遠「それにさ、俺も嘘をついてたんだ。ごめんね」
女子AB「嘘?」
高遠「そう」
嘘とはなんだと、ざわつき始めるクラス内。(皆なんだかんだで未来達を注目している)
高遠「俺と河原さんは、ただのクラスメイトなんかじゃない」
隣りにいた未来をぐいっと引き寄せる。
高遠「俺達は……実は、付き合ってるんだ」
クラス中・未来「ええええええ?!」
ざわめくクラス内と鳴り響く始業のチャイム。
ビックリしすぎて高遠を見つめたまま固まる未来。
混乱したまま午後の授業は始まろうとしているのだった。
今日の授業内容は球技。男子は紅白戦でサッカーをしている。サッカーボールを蹴り、華麗にゴールを決める高遠にクラスメイトの女子からは黄色い声援が沸き起こっている。
未来(相変わらずの文武両道、凄いねぇ……)
未来は声援の中に輪には入らず、少し離れたところでちあきと二人ボールを持って見学をしている。
未来(そんでもって女子をさり気なく褒めたりも出来る紳士なんだから、そりゃ人気もありますわよねぇ)
ゲームセンターからの帰り道「可愛い」と褒められたことをつい思い出して赤くなる未来。いかんいかんと頭を振っていると、なぜかパチリと高遠と目が合ってしまう。
すると高遠は、それまでツンと澄ましていた表情を崩し、キラキラとした満面の笑みで未来に向かって手を振りだす。
高遠「おーーーーい!かっこーーーーっ」
未来(うわあっ!!)
生徒達「えっ?王子……笑顔?!」
生徒達「かっこ……?かっこって?何?」
ザワつくクラスメイトらに「ど、どこかにカッコウでも居るのかな?鳥とも仲良しだなんて流石王子だよねっ!」と必死で誤魔化す未来。
横にいるちあきにも同意を求めていると、「危ない!」という声。声の方を振り返って見ると目の前には、誰かが蹴ったサッカーボールが高速で迫りくる。
咄嗟に避けるがバランスを崩して尻もちをついてしまうと、血相を変えた高遠が駆け付けてくる。
高遠「大丈夫?怪我とか起こしてない?」
返事を聞く前に、高遠は未来を抱き上げお姫様抱っこをする。
高遠「念の為、保険室に連れてくね」
周囲から悲鳴が上がる中、高遠に抱きかかえられていく未来。
そんな中、二人の後ろ姿をじっと見つめる人影が一つ。「この間から、何なんだよ……」との悔しそうな呟きは、周囲のざわつきに掻き消され、聞いている者は誰もいなかった。
――
場面転換
○学校の中。廊下
未来「た、高遠くん??私一人で歩けるよ?」
高遠「うん、でも万が一ってことがあるしね?」
未来「それに私、重いし!」
高遠「大丈夫。少ししか重くないから」
未来「ちょっ……!そこは嘘でも『重くないよ』って言ってよ!!」
とんでもない高遠の言い分に、真っ赤になってジタバタ抗議する未来。
高遠「ウソウソ。全然重くないよ」
ふんわり甘く笑いながらスタスタ歩き続ける高遠は、「それより二人きりでいる時は、俺のことは『けーにゃん』でしょ?」と、小さい子を叱るような仕草で、未来の顔を覗き込む。
高遠「次からは、ちゃんと呼んでね?」
未来「う……」
高遠「返事は?」
未来「わ、わかった……」
渋々頷きながら、未来は「けど」と高遠を見上げる。
未来「そもそもけーにゃんだって秘密の筈なのに、みんなの前で『かっこ』だなんて呼んでるじゃない」
高遠「だって、目があったらなんか嬉しくなっちゃって」
未来「えぇ――。なんていうのかけーにゃんって……大分乙女な思考だよね」
呆れた様に高遠を見つめる未来を気にすることなく、高遠は「そうかな?」と首を傾げる。
高遠「じゃ、保険室までもう少しだからしっかり掴まっててね?」
未来「……」
促されて未来は高遠の首に手を回し、大人しく保険室へと連れて行かれる。
――
場面転換
○昼休み。教室の中
(結局怪我も無く、保険室から戻った未来は一人遅れて着替えをした後教室に戻って来た。)
未来(全く……。王子の行動にはビックリさせられるな――)
キョロキョロと見渡すと高遠はまだ更衣室から戻っていない様子。席に戻ると未来は先に戻って趣味のイラスト(先程のお姫様抱っこの様子)を描いていたちあきに声をかけられる。
ちあき「大丈夫だった?」
未来「うん。大した怪我もなかったよ。……ところで」
チリチリとあちこちから感じる視線に、ヒソヒソ声で未来はちあきにある確認をする。
未来「私がいなくなってから、周りで何か言ってたりした?」
ちあき「ああ、まあね」
カースト最下層としては、波風立てず大人しく学校生活を送りたいところである。そんな中の先程のお姫様抱っこ、あれはいくらなんでもやり過ぎだろう。
やっぱりか、と頭を抱えていると、ちあきは慰めるように肩を叩く。
ちあき「ま、羨ましいだのなんだのって話だから、あんまり気にしないほうがいいよ。それよりむしろ」
ちあきが言い終わる前に、数人の女子が未来の前に仁王立ちする。
女子A「河原さんさあ、高遠くんと最近仲いいみたいだけど、何かあったの?」
未来「え?別に何もないよ?」
女子A「じゃあさっきのアレ何?なんの理由もないのにあんなことしてもらうなんて、おかしくない?」
未来「それは……目の前で転んだから、助けてくれたんじゃない?」
女子B「だったらこの間のは?高遠くんからわざわざノートなんて借りちゃってさ」
未来「ああ、あれは……前も説明したけど、私がうるさいからって黙らせる為に貸してくれたみたいだよ」
「なんでこんな地味な女に親切にするのか」と言わんばかりに口撃を受け、未来はなんとか受け答えをするが周囲は納得いっていない様子。
女子A「けどさあ――」
高遠「ねえ」
一触即発の空気の中、口を挟んできたのは教室に入ってきた高遠だった。
高遠「俺のしたことに、何か文句でもあるの?」
高遠が冷たい視線を投げかけると、女子AB共さっきまでの勢いは鳴りを潜め、代わりに嫌われまいとばかりに言い訳をし始める。
女子A「そうじゃないけど、でもこの間から河原さんばっかり優しくしてるから……」
高遠「だから何なの?」
女子A「それは……」
高遠「俺が誰に親切にしようと、関係ないでしょ?」
女子B「そうだけど……。けど、この間から高遠くんの様子がいつもと違うから……。河原さんに何か脅されたりしてるんじゃないかって、みんなそれを心配してるんだよ!」
高遠「は?脅されたりなんてしてないけど?」
女子A「じゃあなんで高遠くんは河原さんに優しくするの?一体どんな関係なの?!」
ほんの少し沈黙した後、ゆっくりと高遠は口を開く。
高遠「どんなって関係って……。そんなのただのクラスメイト……だけど?」
相手に威圧感のある視線を送ると、高遠はそのまま教室から出て行く。教室の中は気まずい空気が流れている。ちあきがこっそり「王子、怒ってたね」と耳打ちする。
未来「――ちょっと行ってくる」
未来は咄嗟に高遠の後を追いかけた。
――
場面転換
○屋外。人気のない校舎裏
高遠「くっそ……」
腹立たしそうに壁を叩く高遠を見つけた未来。
未来「けーにゃん……。大丈夫?」
高遠「かっこ……。ごめんね迷惑かけて」
未来「迷惑なんてそんな……。庇ってもらったのはこっちなのに」
色々な感情が溢れるのを必死で我慢している様な表情の高遠はため息を一つつくと、ぎこちない笑みを浮かべる。
高遠「……昔からそうなんだよ」
未来「え?」
高遠「俺が、自分のしたいことをしようとすると、いつも誰かに『俺らしくない』とか『イメージと違う』とか言われてさ」
遠くの緑を見ながら、話を続ける高遠。
高遠「俺らしい、って一体なんなんだろうね?考えてもわからないから色々面倒になって、素っ気無くしてたら『氷の王子』だとかなんとか今度は騒がれてさ。何なんだよ氷の王子って。俺はただの男子高生だっつーの」
高遠はくしゃりと前髪を掴むと、ズルズルとその場に座り込む。
未来「けーにゃんも、色々大変なんだね」
高遠「……ごめん。愚痴ばっかで」
未来「なんのなんの。友達だもん。愚痴も聞くし相談にものるし」
未来はその傍らに座り込むと青空を見上げる。
未来「けーにゃんはカッコいいし何でも出来るから、きっとみんなは夢を見たいんだろうね」
高遠「夢?」
未来「けーにゃんが漫画に出てくるような……例えばそう、パーフェクト超人マンなんだろうって、夢」
高遠「パーフェクト超人……マン……?」
未来「うん。でもさ、無理してまで期待を一身に背負わなくてもいいと思うよ。生身の人間はパーフェクト超人マンにはなれないんだから」
高遠「パーフェクト超人マン……」(顔を項垂れる)
未来「そう」(コクリと頷く)
未来は「いいこと言った!」と高遠の方を見ると、ぶるぶると体を震わせている。泣いているのだろうか。
未来「けーにゃん……?」
気遣わしげに声をかけると、もう駄目だとばかりに高遠はブハッと笑い出す。
高遠「パーフェクト超人マン……って何?なんなのそれ」
ツボに嵌った様子でヒーヒー笑う高遠に、未来は「え?何?なんで笑うの?!」とよくわからないがらも恥ずかしくなり、顔が徐々に赤くなる。
高遠は笑いすぎて涙が滲んだ目尻を拭うと、晴々とした顔で未来を見つめる。
高遠「沢山笑ったらなんか元気でてきたわ。かっこのお陰だよ。ありがとう」
未来「え、なんか複雑なんだけど……。どういたしまして」
高遠「それじゃそろそろ戻ろうか」
高遠は立ち上がると、吹っ切れたように伸びをして、座る未来に向かって手を差し伸べるのだった。
――
○帰り際
歩きながら、話をする二人。
未来「あのさ、これからもけーにゃんは今まで通りで居続けるの?」
高遠「どう転んでも周りがギャーギャー言うのは変わらないってわかったから、どうするかなあ。……けど、なんで?」
未来「あ、いやあ……。さっき、私の事『ただのクラスメイト』って言ったでしょ?」
高遠「それは……」
未来「自分からお願いしておいてなんだけど、けーにゃんからそう言われた時に、ちょっと寂しくなったっていうか」
高遠「それって……」
言いにくそうに目を伏せがちに話しをする未来は、何かを期待するように頬を染める高遠に気が付かない。
未来「私達って、友達だよね?」
高遠「え?あ、ああ。もちろん」
未来「けーにゃんは、私と可愛いものの話を学校でしても平気だったりする?」
高遠「大丈夫だけど……?」
未来は「よしわかった!」と何かを決断したような表情をする。
未来「けーにゃん。これからは学校でもドルラブとかの話をしよう!秘密の友達じゃなくて、普通の友達になろう!」
未来の決意表明が、自分の想像していたものとは違った高遠はほんの少しがっかりするが、未来の優しさもやっぱり嬉しくて顔をむず痒そうに歪ませる。
高遠「……これだからかっこはなあ……」
未来「え?何か言った?」
高遠「何でもないよ」
聞き返す未来に苦笑しながらその頭をワシャワシャと乱暴に撫で回す。
高遠「それじゃ改めて宜しく……と、言いたいところだけど、またさっきのみたいなことがあったらかっこがまた、嫌な思いをするかもしれないよ?」
未来「まあ、その時はその時でなんとかするよ」
高遠「なんとかって……」
力こぶを作って笑う未来の横で何か考え込む高遠。
高遠「かっこは俺の他に仲のいい男子はいたりする?」
未来「え?急に何?……まあ、いないけど」
高遠「じゃ、俺が一番の仲良し?」
未来「うん」
高遠「ほんとに?」
未来「ほんとに」
高遠「ほんとのほんとに?」
未来「ちょっと何なのさっきから?ほんとだってば!仲良しなのはけーにゃんだけだってば!」
意図のわからない質問をしつこくされて、逆ギレとも言えるような答え方をする未来に、なぜか満足そうな顔をする高遠。
高遠「そっか。わかった。なら……いいよね」
誰に確認するでもなく、一人呟く高遠。真剣な目で未来を見つめる。
高遠「じゃあ……俺がちゃんと未来を守るから」
未来「え?」
未来(今、私の名前で読んだ――?)
突然の呼び捨てにドキリと胸が跳ねる未来。高遠はフッと表情を和らげると「休み時間が終わるから」と教室へ急ぐように促すのだった。
――
○場面転換
教室内。
戻ってきた高遠と未来を見つけた女子ABは、駆け寄ってくる。
女子AB「高遠くん、さっきのことは……」
高遠「いいよ。こっちも言い過ぎたよ」
滅多に拝めないキラキラした笑顔を見せる高遠にポーっと見惚れる二人。
高遠「それにさ、俺も嘘をついてたんだ。ごめんね」
女子AB「嘘?」
高遠「そう」
嘘とはなんだと、ざわつき始めるクラス内。(皆なんだかんだで未来達を注目している)
高遠「俺と河原さんは、ただのクラスメイトなんかじゃない」
隣りにいた未来をぐいっと引き寄せる。
高遠「俺達は……実は、付き合ってるんだ」
クラス中・未来「ええええええ?!」
ざわめくクラス内と鳴り響く始業のチャイム。
ビックリしすぎて高遠を見つめたまま固まる未来。
混乱したまま午後の授業は始まろうとしているのだった。