高遠王子の秘密の件は、私だけが知っている
4
○授業中
授業がいつも通りに進行する中、未来はいつまでも混乱している。
思い出すのは授業前の高遠の台詞。
高遠(回想)『俺達、実は付き合ってるんだ』
机の下でこっそりメッセージアプリで、ちあきとやり取りをする。
【メッセージアプリのやり取り】
ちあき『未来達って、付き合ってたの?』
未来『わかんない』
ちあき『は?なにそれ?』
未来『だから、わかんないんだって!』
ちあき『??まあいいや。あとは帰りに聞くから。モック行こうよ!』
未来(こっちだって、色々説明してほしいよ!!)
頭を抱える未来。授業内容はさっぱり頭に入らないまま、いつの間にか終わっている。皆が何か聞こうと机に集まるのをかき分けて、高遠の元に駆け寄っていく。
未来「高遠くんっ!ちょっといいかな?」
高遠の腕を掴むと、未来は人気のない場所へと連れ出すのだった。
――
場面転換
○人気のない校舎裏
人気のないことを確認すると、未来は高遠に詰め寄る。
未来「ちょっと、けーにゃん!さっきの何?!」
高遠「さっきのって?」
未来「あ、あの、付き合ってるとかなんとかって話!!」
とぼける高遠に、しどろもどろになりながら未来は抗議する。
高遠「だって俺達仲良しじゃん?だったらいっその事、付き合ってるって言ってもいいんじゃないか?って思ったからさ」
未来「はあっ?」
高遠「中学で習った証明の話、覚えてる?」
高遠は地面に枝を使って字を書き始める。
【地面に書いた字】
A=B
B=C
故にA=C
未来「これが何?」
高遠は地面に書いた字を指しながら説明し始める。
高遠「俺達は仲良しな男女、仲良しな男女は大体付き合ってる。故に俺達は付き合っているといえる」
未来(???何言ってるんだあ――?!)
頭脳明晰の筈の高遠にしては言っている事がなんだかおかしい。思わずツッコミを入れてしまう。
未来「いやいや『故に』、じゃなくて!」
呆れる未来に「じゃあ説明を変えてみようか」と、高遠は取ってつけたような美麗な笑みを浮かべる。
高遠「もう一度聞くけどかっこはさ、男子では俺が一番の仲のいい友達なんだよね?」
未来「うん」
高遠「そして俺に『ただのクラスメイト』って言われるとちょっと寂しくなるんだよね?」
未来「うん……」
高遠「でもかっこがさっき言ってた『普通の友達』って、結局は『ただの友達』ってことなんだよ?それはそれで寂しくないのかい?……俺は一番の友達には特別な間柄でいてほしいけどなあ」
(回想 未来『秘密の友達じゃなくて、普通の友達になろう!』)
未来「う……」
高遠「付き合うってことは、特別親しいってことなんだよ?誰よりも一番、ってこと。……ね、だからさ。俺の一番をあげるから、俺と付き合おう?付き合って?」
こてんと首を傾げ、お願いする高遠。
高遠「それに付き合うってことにしたほうが、さっきみたいなうるさい外野も静かになるんじゃないかな」
未来(そう……なのか?)
高遠「きっとその方がかっこ……未来のこと、守れると思うから」
未来「……うーん」
高遠「俺の『特別』になって?」
未来「ううーーーーーーーーーん」
腕組みをしてウンウン唸る未来。高遠の説明は一応筋道が通っているような気がする。けれど何かが違うような気もしてならない。
悩む未来を、高遠は捨てられた子犬の様な潤んだ瞳で見つめている。
未来(あ――っ!もうそんな目で見ないでよ――!)
未来「わ、わかった!わかりました!私達、付き合おう!」
覚悟を決めた未来は承諾の言葉を口にする。
高遠「ほんと?やった!」
すると先程までの哀れっぽい表情は一転。いたずらっぽさを秘めた満面の笑みを見せる高遠。
未来(あっ、やられた――!)
高遠「ではこれからどうぞよろしくね。俺の彼女さん」
嬉しそうにガバリと抱きつく高遠に、いよいよ未来は混乱を極めるのだった。
――
場面転換
○放課後。
ファストフード店「バーガーモック」内
(その後の授業が終わるなり教室を飛び出した未来とちあきはファストフード店に立ち寄ると、向かい合って座っておしゃべりをしている。)
未来から詳細を聞いて驚いているちあき。
ちあき「友達の最上級形が『彼女』だあ?そんな話聞いたことないよ」
未来「だ、だよね……」
ちあき「天才の考えることは凡人には理解出来ないって言うけど、本当だね」
興味深い顔で、ポテトを口へと運びなからスマホに何か打ち込むちあき。
未来「何してるの?」
ちあき「いや、せっかくだから今描いてる漫画公募のネタにでもしようかと」
未来「ちょ……!やめてよっ」
慌てて抵抗する未来をひらりと避けるちあき。
ちあき「でも、その選択はあながち間違ってなかったのかもよ?」
未来「なんで?」
ちあき「だって、お姫様抱っこはともかく……ちょっと王子と接触があっただけであの騒ぎだよ?クラスで普通に話なんかしてたら、どんな目に合うかわかんないよ?」
未来「確かに……」
ちあき「だったら極端だけど、付き合ってるってことにしたほうが、特別扱いされてる理由に説得力があるんじゃない?」
未来「そういうもんなのかなぁ」
ちあき「ま、あとは付き合う利点としては……。近くで目の保養ができるからラッキー、みたいな?」
未来「はあ?」
ちあき「相手はあのあの王子だよ?普通に過ごしてたら付き合ったりなんかできないような優良物件だよ?いい機会なんだからこのシチュエーションを楽しんじゃいなよ!」
未来「物件って……。他人事だと思って全く」
ブツブツ呟いていると、窓を叩く音がする。
外を見ると、ガラス越しに満面の笑みで手を振る高遠と後ろにいる取りまきと思わしき男子生徒の姿(2話目、3話目に出てきた謎の男子生徒)。
高遠はスマホを操作した後で、指で未来達の席をちょんちょんと示している。それと同時に机に置いた未来のスマホがブルルと震える。
【未来のスマホの通知画面】
高遠「そっちに行ってもいい?」
――
場面転換
○未来達の席にやってきた高遠ら二人。荷物を先に置きにやってきた。「何を食べていたのか」などと雑談をしながらカバンから財布を取り出す高遠。
高遠「じゃ、ちょっと買いに行ってくるよ」
男子生徒「あ、わり。先に行ってて。財布ちょっと見つからないや」
ゴソゴソカバンの中を漁る男子生徒の様子をやれやれといった感じで待っていた高遠だったが、中々見つからない様子なので男子生徒に声をかける。
高遠「桐山は何頼む?」
男子生徒(桐山)「え?何?奢ってくれんの?じゃベーコンチーズバーガーのセットで!」
高遠「ばーか。後で徴収するに決まってるだろ」
おちゃらけた様子の桐山にフッと笑う高遠。桐山の注文を聞くと「先に行っている」と、受付カウンターへと並びに行く。その間もゴソゴソとカバンを探っている様子だった桐山は、高遠の姿が植栽で見えなくなったのを確認すると、「さてと」と探すのを止めて席に座り直す。高遠へと向けていた陽気な表情は鳴りを潜め、横柄な態度で未来に問う。
桐山「河原……お前、この間高遠とゲーセンにいただろ?」
未来「あ、うん」
桐山「あいつ、めっちゃ笑ってたよな」
未来「まあ、そうだね」
(未来の回想:はしゃぎながらクレーンゲームに挑戦する二人)
何の話が始まるのだ?疑問に思いながらも取りあえず大人しく話を聞くことにする未来とちあき。
桐山「……俺、高遠とは小学校から一緒なんだ。けどあいつ、学年が上がるにつれて段々冷めてるっていうか、他人と一歩引いてる雰囲気出すようになってきてさ。……だから俺、どうやったら高遠が昔みたいに笑ってくれるのかってずっと考えてたんだけど」
桐山は未来をギロリと睨みつける。
桐山「なのにあいつは……!お前みたいなやつの前で、腹の底から楽しそうに笑いやがって――なんで、その相手が俺じゃないんだよ!!」
桐山は悔しそうに吠えているが、未来からすれば八つ当たりもいいところ。困惑するしかない話だった。
未来「そう言われてもねえ」
桐山「お前らそもそもなんで付き合ってるんだよ!接点なんて何にもねえだろ?!」
未来「接点は……まあ、あるって言えばあるんだけど」
桐山「なんだよそれ」
未来「……まあ、趣味の話?みたいな?」
高遠に無断でヲタ話の件をするわけにも行かず、お茶を濁そうとする未来を桐山は逃がそうとしない。
桐山「なあ河原。だったらその高遠と仲良くなるきっかけになったっていう趣味ってやつ、俺にも教えてくれよ」
未来「それは……本人にも聞いてみないとなんとも」
未来(桐山くんてチャラいし態度も悪いけど……昔みたいに笑ってほしくて色々行動してるなんて、実は友人思いの熱い人なのかも)
感心する未来だが、それとこれとはまた別の話。
高遠はバレても気にはしないとは言っていたが、やはり本人の承諾無しでは教えることはできないだろう。
桐山「なんだよケチくせえな!さては、俺と高遠との友情が更に深まるのを妬いてんのか?」
未来(前言撤回!やっぱりムカつくやつ!)
未来「はあ?そんな訳ないでしょ!って言うか、だったら直接高遠くん本人に聞きなさいよ!」
高遠「俺が一体何だって?」
気がつくとトレーに二人分の注文の品を持った高遠が少々不機嫌そうに立っている。
高遠「桐山、お前まだ財布見つかんないの?……つーか受け取りにも来ないで、俺の未来と何長々と喋ってる訳?」
トレーを置くと、未来の首に腕を巻きつけ桐山へと見せつける。
未来「へっ?あ、あの?」
桐山「ち、違うって!これには訳が!」
慌てる二人と野次馬根性で事態を見守るちあき。
高遠「訳なんて知らないけど、未来は俺の彼女だからな。変な気なんて起こすなよ」
桐山「起こす気なんてないし、そもそもそんな気起きねえよ!」
頭上でギャンギャン繰り広げられる会話にうんざりする未来は「あのー」と話に割って入ることにする。
未来「桐山くんは、もっと高遠くんに昔みたいにもっと笑ってほしいんだって」
桐山「あっバカ!河原っ」
未来「だから私達の共通の趣味の……アレ、知りたいらしいよ?」
未来はスマホの待ち受け画面、ドルラブのiちゃんのイラストを指差す。それに気がついた高遠だが、フイとそっぽを向いてしまう。
高遠「趣味の話は未来とするから、桐山とは別にしなくていい」
未来「えっ?!」
桐山「なんでだよ!」
高遠「お前に教えたら、せっかくの未来との会話が減るから嫌だ」
高遠は口では溺愛さながらの発言をするが、一瞬僅かに体を強張らせたのを未来は見逃さなかった。
未来「あのね、減らないから大丈夫だってば。……それにさ桐山くんは、高遠くんの趣味がどんなでも、きっと一緒に楽しんでくれると思うよ?」
桐山「そうだよ!俺は河原なんかよりもその話で盛り上がれる自信があるぞ!」
高遠「……本当かよ」
桐山「なんなら誰よりも上手にできる自信すらあるぜ!」
ドヤ顔をする桐山に、思わずくしゃりと顔を歪ませ笑う高遠。
高遠「ばーか。そういうゲームじゃないんだっつーの」
周囲からの説得に負けた高遠は、スマホを取り出すと趣味の内容を桐山にし始めた。
――
場面転換
○ファストフード店内。
スマホを操作する桐山に皆で色々アドバイスをしている。
未来「……で、この中から自分の分身になるキャラを選ぶの。キャラごとに性格も違うって、ドルラブはそういうところも拘って作られてるよね」
ゲーム内容を誉められ、なぜか嬉しそうな反応を示す高遠に気が付かない周囲は操作方法の話に盛り上がっている。
桐山「26人もいるのかよ……」
未来「ちなみに私はこのiちゃんを使ってる。程々に普通、っところがチャームポイントなんだよ。ちあきはSちゃん。冷静沈着な頭脳派だよ」
桐山「程々に普通ってそれチャームポイントかよ……ま、いいや。俺は桐山だから……kちゃんにするかな」
未来「kちゃんはね、大人しく見えるけど芯は強くて心優しいってキャラだよ」
高遠「kちゃんは俺が使ってるから、使用禁止」
桐山「なんでだよ」
未来「同担拒否?」
高遠「kちゃんは俺だけのものだから。お前は違うの使ってよ」
高遠は画面のキャラの一人を指差す。
高遠「このaちゃんなんて、お前っぽいからこれにしたら?」
桐山「これ?どんなキャラなんだ?」
高遠「――明るく元気で」
桐山「おっ!じゃあそれで!」
高遠「――ちょっとおバカなキャラ、かな」
桐山「!!」
桐山は「俺はバカじゃねえぞ!」と抗議するが、「まあでもこの赤毛が可愛いから良しとするか」と決定ボタンをタップする。
【桐山のスマホ画面】
aちゃんが笑いかける画面
『ようこそ!アイドルラブミッショッンへ!』
画面を見ながら皆で桐山に声をかける。
三人「ようこそ!アイドルラブミッショッンへ!」
――
場面転換
○夕方。店を出る四人。
二人とは少し離れて後ろを歩く未来と高遠。
高遠「今日はありがとう」
その視線は目の前の桐山に向けられている。
未来「ううん。桐山くんもドルラブ楽しんでくれそうでよかったね」
高遠「うん」
高遠は「よかったよかった」と前方を見て笑う未来を見つめると、その手をそっと握りしめる。ビクリとする未来。再び前方を向いた高遠は、ポツリと未来に再度感謝の言葉を口にする。
高遠「……今日は、本当にありがとう」
未来「……うん」
頬を染め、二人無言で手を繋いで歩いている。
その距離は昨日よりも確かに近づいているのだった。
授業がいつも通りに進行する中、未来はいつまでも混乱している。
思い出すのは授業前の高遠の台詞。
高遠(回想)『俺達、実は付き合ってるんだ』
机の下でこっそりメッセージアプリで、ちあきとやり取りをする。
【メッセージアプリのやり取り】
ちあき『未来達って、付き合ってたの?』
未来『わかんない』
ちあき『は?なにそれ?』
未来『だから、わかんないんだって!』
ちあき『??まあいいや。あとは帰りに聞くから。モック行こうよ!』
未来(こっちだって、色々説明してほしいよ!!)
頭を抱える未来。授業内容はさっぱり頭に入らないまま、いつの間にか終わっている。皆が何か聞こうと机に集まるのをかき分けて、高遠の元に駆け寄っていく。
未来「高遠くんっ!ちょっといいかな?」
高遠の腕を掴むと、未来は人気のない場所へと連れ出すのだった。
――
場面転換
○人気のない校舎裏
人気のないことを確認すると、未来は高遠に詰め寄る。
未来「ちょっと、けーにゃん!さっきの何?!」
高遠「さっきのって?」
未来「あ、あの、付き合ってるとかなんとかって話!!」
とぼける高遠に、しどろもどろになりながら未来は抗議する。
高遠「だって俺達仲良しじゃん?だったらいっその事、付き合ってるって言ってもいいんじゃないか?って思ったからさ」
未来「はあっ?」
高遠「中学で習った証明の話、覚えてる?」
高遠は地面に枝を使って字を書き始める。
【地面に書いた字】
A=B
B=C
故にA=C
未来「これが何?」
高遠は地面に書いた字を指しながら説明し始める。
高遠「俺達は仲良しな男女、仲良しな男女は大体付き合ってる。故に俺達は付き合っているといえる」
未来(???何言ってるんだあ――?!)
頭脳明晰の筈の高遠にしては言っている事がなんだかおかしい。思わずツッコミを入れてしまう。
未来「いやいや『故に』、じゃなくて!」
呆れる未来に「じゃあ説明を変えてみようか」と、高遠は取ってつけたような美麗な笑みを浮かべる。
高遠「もう一度聞くけどかっこはさ、男子では俺が一番の仲のいい友達なんだよね?」
未来「うん」
高遠「そして俺に『ただのクラスメイト』って言われるとちょっと寂しくなるんだよね?」
未来「うん……」
高遠「でもかっこがさっき言ってた『普通の友達』って、結局は『ただの友達』ってことなんだよ?それはそれで寂しくないのかい?……俺は一番の友達には特別な間柄でいてほしいけどなあ」
(回想 未来『秘密の友達じゃなくて、普通の友達になろう!』)
未来「う……」
高遠「付き合うってことは、特別親しいってことなんだよ?誰よりも一番、ってこと。……ね、だからさ。俺の一番をあげるから、俺と付き合おう?付き合って?」
こてんと首を傾げ、お願いする高遠。
高遠「それに付き合うってことにしたほうが、さっきみたいなうるさい外野も静かになるんじゃないかな」
未来(そう……なのか?)
高遠「きっとその方がかっこ……未来のこと、守れると思うから」
未来「……うーん」
高遠「俺の『特別』になって?」
未来「ううーーーーーーーーーん」
腕組みをしてウンウン唸る未来。高遠の説明は一応筋道が通っているような気がする。けれど何かが違うような気もしてならない。
悩む未来を、高遠は捨てられた子犬の様な潤んだ瞳で見つめている。
未来(あ――っ!もうそんな目で見ないでよ――!)
未来「わ、わかった!わかりました!私達、付き合おう!」
覚悟を決めた未来は承諾の言葉を口にする。
高遠「ほんと?やった!」
すると先程までの哀れっぽい表情は一転。いたずらっぽさを秘めた満面の笑みを見せる高遠。
未来(あっ、やられた――!)
高遠「ではこれからどうぞよろしくね。俺の彼女さん」
嬉しそうにガバリと抱きつく高遠に、いよいよ未来は混乱を極めるのだった。
――
場面転換
○放課後。
ファストフード店「バーガーモック」内
(その後の授業が終わるなり教室を飛び出した未来とちあきはファストフード店に立ち寄ると、向かい合って座っておしゃべりをしている。)
未来から詳細を聞いて驚いているちあき。
ちあき「友達の最上級形が『彼女』だあ?そんな話聞いたことないよ」
未来「だ、だよね……」
ちあき「天才の考えることは凡人には理解出来ないって言うけど、本当だね」
興味深い顔で、ポテトを口へと運びなからスマホに何か打ち込むちあき。
未来「何してるの?」
ちあき「いや、せっかくだから今描いてる漫画公募のネタにでもしようかと」
未来「ちょ……!やめてよっ」
慌てて抵抗する未来をひらりと避けるちあき。
ちあき「でも、その選択はあながち間違ってなかったのかもよ?」
未来「なんで?」
ちあき「だって、お姫様抱っこはともかく……ちょっと王子と接触があっただけであの騒ぎだよ?クラスで普通に話なんかしてたら、どんな目に合うかわかんないよ?」
未来「確かに……」
ちあき「だったら極端だけど、付き合ってるってことにしたほうが、特別扱いされてる理由に説得力があるんじゃない?」
未来「そういうもんなのかなぁ」
ちあき「ま、あとは付き合う利点としては……。近くで目の保養ができるからラッキー、みたいな?」
未来「はあ?」
ちあき「相手はあのあの王子だよ?普通に過ごしてたら付き合ったりなんかできないような優良物件だよ?いい機会なんだからこのシチュエーションを楽しんじゃいなよ!」
未来「物件って……。他人事だと思って全く」
ブツブツ呟いていると、窓を叩く音がする。
外を見ると、ガラス越しに満面の笑みで手を振る高遠と後ろにいる取りまきと思わしき男子生徒の姿(2話目、3話目に出てきた謎の男子生徒)。
高遠はスマホを操作した後で、指で未来達の席をちょんちょんと示している。それと同時に机に置いた未来のスマホがブルルと震える。
【未来のスマホの通知画面】
高遠「そっちに行ってもいい?」
――
場面転換
○未来達の席にやってきた高遠ら二人。荷物を先に置きにやってきた。「何を食べていたのか」などと雑談をしながらカバンから財布を取り出す高遠。
高遠「じゃ、ちょっと買いに行ってくるよ」
男子生徒「あ、わり。先に行ってて。財布ちょっと見つからないや」
ゴソゴソカバンの中を漁る男子生徒の様子をやれやれといった感じで待っていた高遠だったが、中々見つからない様子なので男子生徒に声をかける。
高遠「桐山は何頼む?」
男子生徒(桐山)「え?何?奢ってくれんの?じゃベーコンチーズバーガーのセットで!」
高遠「ばーか。後で徴収するに決まってるだろ」
おちゃらけた様子の桐山にフッと笑う高遠。桐山の注文を聞くと「先に行っている」と、受付カウンターへと並びに行く。その間もゴソゴソとカバンを探っている様子だった桐山は、高遠の姿が植栽で見えなくなったのを確認すると、「さてと」と探すのを止めて席に座り直す。高遠へと向けていた陽気な表情は鳴りを潜め、横柄な態度で未来に問う。
桐山「河原……お前、この間高遠とゲーセンにいただろ?」
未来「あ、うん」
桐山「あいつ、めっちゃ笑ってたよな」
未来「まあ、そうだね」
(未来の回想:はしゃぎながらクレーンゲームに挑戦する二人)
何の話が始まるのだ?疑問に思いながらも取りあえず大人しく話を聞くことにする未来とちあき。
桐山「……俺、高遠とは小学校から一緒なんだ。けどあいつ、学年が上がるにつれて段々冷めてるっていうか、他人と一歩引いてる雰囲気出すようになってきてさ。……だから俺、どうやったら高遠が昔みたいに笑ってくれるのかってずっと考えてたんだけど」
桐山は未来をギロリと睨みつける。
桐山「なのにあいつは……!お前みたいなやつの前で、腹の底から楽しそうに笑いやがって――なんで、その相手が俺じゃないんだよ!!」
桐山は悔しそうに吠えているが、未来からすれば八つ当たりもいいところ。困惑するしかない話だった。
未来「そう言われてもねえ」
桐山「お前らそもそもなんで付き合ってるんだよ!接点なんて何にもねえだろ?!」
未来「接点は……まあ、あるって言えばあるんだけど」
桐山「なんだよそれ」
未来「……まあ、趣味の話?みたいな?」
高遠に無断でヲタ話の件をするわけにも行かず、お茶を濁そうとする未来を桐山は逃がそうとしない。
桐山「なあ河原。だったらその高遠と仲良くなるきっかけになったっていう趣味ってやつ、俺にも教えてくれよ」
未来「それは……本人にも聞いてみないとなんとも」
未来(桐山くんてチャラいし態度も悪いけど……昔みたいに笑ってほしくて色々行動してるなんて、実は友人思いの熱い人なのかも)
感心する未来だが、それとこれとはまた別の話。
高遠はバレても気にはしないとは言っていたが、やはり本人の承諾無しでは教えることはできないだろう。
桐山「なんだよケチくせえな!さては、俺と高遠との友情が更に深まるのを妬いてんのか?」
未来(前言撤回!やっぱりムカつくやつ!)
未来「はあ?そんな訳ないでしょ!って言うか、だったら直接高遠くん本人に聞きなさいよ!」
高遠「俺が一体何だって?」
気がつくとトレーに二人分の注文の品を持った高遠が少々不機嫌そうに立っている。
高遠「桐山、お前まだ財布見つかんないの?……つーか受け取りにも来ないで、俺の未来と何長々と喋ってる訳?」
トレーを置くと、未来の首に腕を巻きつけ桐山へと見せつける。
未来「へっ?あ、あの?」
桐山「ち、違うって!これには訳が!」
慌てる二人と野次馬根性で事態を見守るちあき。
高遠「訳なんて知らないけど、未来は俺の彼女だからな。変な気なんて起こすなよ」
桐山「起こす気なんてないし、そもそもそんな気起きねえよ!」
頭上でギャンギャン繰り広げられる会話にうんざりする未来は「あのー」と話に割って入ることにする。
未来「桐山くんは、もっと高遠くんに昔みたいにもっと笑ってほしいんだって」
桐山「あっバカ!河原っ」
未来「だから私達の共通の趣味の……アレ、知りたいらしいよ?」
未来はスマホの待ち受け画面、ドルラブのiちゃんのイラストを指差す。それに気がついた高遠だが、フイとそっぽを向いてしまう。
高遠「趣味の話は未来とするから、桐山とは別にしなくていい」
未来「えっ?!」
桐山「なんでだよ!」
高遠「お前に教えたら、せっかくの未来との会話が減るから嫌だ」
高遠は口では溺愛さながらの発言をするが、一瞬僅かに体を強張らせたのを未来は見逃さなかった。
未来「あのね、減らないから大丈夫だってば。……それにさ桐山くんは、高遠くんの趣味がどんなでも、きっと一緒に楽しんでくれると思うよ?」
桐山「そうだよ!俺は河原なんかよりもその話で盛り上がれる自信があるぞ!」
高遠「……本当かよ」
桐山「なんなら誰よりも上手にできる自信すらあるぜ!」
ドヤ顔をする桐山に、思わずくしゃりと顔を歪ませ笑う高遠。
高遠「ばーか。そういうゲームじゃないんだっつーの」
周囲からの説得に負けた高遠は、スマホを取り出すと趣味の内容を桐山にし始めた。
――
場面転換
○ファストフード店内。
スマホを操作する桐山に皆で色々アドバイスをしている。
未来「……で、この中から自分の分身になるキャラを選ぶの。キャラごとに性格も違うって、ドルラブはそういうところも拘って作られてるよね」
ゲーム内容を誉められ、なぜか嬉しそうな反応を示す高遠に気が付かない周囲は操作方法の話に盛り上がっている。
桐山「26人もいるのかよ……」
未来「ちなみに私はこのiちゃんを使ってる。程々に普通、っところがチャームポイントなんだよ。ちあきはSちゃん。冷静沈着な頭脳派だよ」
桐山「程々に普通ってそれチャームポイントかよ……ま、いいや。俺は桐山だから……kちゃんにするかな」
未来「kちゃんはね、大人しく見えるけど芯は強くて心優しいってキャラだよ」
高遠「kちゃんは俺が使ってるから、使用禁止」
桐山「なんでだよ」
未来「同担拒否?」
高遠「kちゃんは俺だけのものだから。お前は違うの使ってよ」
高遠は画面のキャラの一人を指差す。
高遠「このaちゃんなんて、お前っぽいからこれにしたら?」
桐山「これ?どんなキャラなんだ?」
高遠「――明るく元気で」
桐山「おっ!じゃあそれで!」
高遠「――ちょっとおバカなキャラ、かな」
桐山「!!」
桐山は「俺はバカじゃねえぞ!」と抗議するが、「まあでもこの赤毛が可愛いから良しとするか」と決定ボタンをタップする。
【桐山のスマホ画面】
aちゃんが笑いかける画面
『ようこそ!アイドルラブミッショッンへ!』
画面を見ながら皆で桐山に声をかける。
三人「ようこそ!アイドルラブミッショッンへ!」
――
場面転換
○夕方。店を出る四人。
二人とは少し離れて後ろを歩く未来と高遠。
高遠「今日はありがとう」
その視線は目の前の桐山に向けられている。
未来「ううん。桐山くんもドルラブ楽しんでくれそうでよかったね」
高遠「うん」
高遠は「よかったよかった」と前方を見て笑う未来を見つめると、その手をそっと握りしめる。ビクリとする未来。再び前方を向いた高遠は、ポツリと未来に再度感謝の言葉を口にする。
高遠「……今日は、本当にありがとう」
未来「……うん」
頬を染め、二人無言で手を繋いで歩いている。
その距離は昨日よりも確かに近づいているのだった。