オルガンイズムにあがく鳥
「だったら……」

エヴァが言いかけ、

「だがな――俺の目の前で死んだのはみんな、日本人だった」

紫苑が言葉を被せた。

それが、つまり答え。

「! アナ、タ……!!」

エヴァの目が見る見る変わっていく。

彼女はイギリス人。

アダムが完成された暁には、彼女はこの国で生きていくこと……

いや、この世界で生きていくことが、困難になるだろう。

イエローモンキーにひれ伏すなど、英国の誇りが認めるものか。

「だったらお前は、一切れのパンで十人の人間を救えるのか?」

だからそれが、紫苑の答え。

飢餓があった。一切れのパンを巡り、多くの人が死んだ。少ない食料を巡り、たくさんの命が奪われた。

アダムは言う。

「そんな世界を救うために僕は作られたんだ」

お前にできるのか?

それが?

お前に?

「だったら、アナタはこの虚無感に満ちた世界を受け入れると言うの?」

平和な世の中。

すべてのものが善を行う世界。

すべてが満ちているゆえに、すべてが退屈な世の中。

なんのために生き……そして、なんのために死ぬのか。

途方もない哲学をこの世界は要求し……それはやがて自らを死に追いやる。
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