オルガンイズムにあがく鳥
「俺はアイツに暴力は振るわれていませんよ」

別にかばう気があったとか、そういうつもりではない。

だが、一方的にやられたアイツが逮捕で、殴った俺のほうが無罪放免というのが、なんとなく赦せなかった。

俺とエヴァはどちらかが悪くて対立したのではない。

思想の問題だった。

そして、このことでエヴァを裁くのは、少なくとも『善』ではない。

「はあ……?」

桜田がよくわからないという顔をする。

だから紫苑は自ら提示する。

「むしろ、暴力を振るったのは俺のほうです。逮捕するなら俺のほうで、彼女は本来訴える側になるんじゃないですか?」

自由を求めてあがいた鳥の翼を切り落とした俺が、一切を赦されるというのはおかしな話だ。

自由を求めることに悪意はない。

自由のために戦うことに悪意はない。

そして、俺は自由よりも安定を選び、望んだ。

その違いは、そうだから、思想。

善も悪もないのだ。

だから、彼女が逮捕される理由は――ない。
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