オルガンイズムにあがく鳥
「そうだな、ああ、そうだ……まったく……」

紫苑はポケットをまさぐる。タバコを取り出し、一息。

紫煙が立ち上ぼり、『教会』のステンドグラスを抜けて極彩色に輝く光の中を、泳ぐ。

不意に、思った。

「なぜ、俺は一切れのパンで十人を救うことを考えたのだろうな?」

「それは、またどういうことかな?」

いや、答えは単純明快だったのだ。

実に馬鹿馬鹿しい。

一切れのパンで十人もの人を救うことはできない。

だからその答えは――

「最初から、十人分のパンを用意することを考えるべきだったんだ」

そう、今は『あの時』ではない。

だから思う。

無理に一切れのパンで十人を救う必要はない。

最初から十人のパンを用意する方法を考えれば、いいだけの話だ。

「し、紫苑……? 君はなにを話してるんだ?」

富を求めて虚無を選ぶか?

自由を求めて貧困を選ぶか?

バーカ。俺はどちらも選ばねえよ。

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