隠し味
「なんだよわたあめって、気持ちわりい」

 週末の居酒屋。ぶっと吹いた和樹の口から、ビール数滴と枝豆が勢いよく飛んで行った。

「タコさんウインナーとかりんごのうさぎさんとか、いちいちワードが幼いんだよ。わたあめとかいらねえし、あーんとか無理だし。お前一体、鈴木美嘉のどこに惚れたんだよ」

 あざ笑う和樹の前、俺も自分をあざ笑った。

「いや、まじで今回は不倫相手のチョイスミスったわ。日曜朝にピンポンされた時、たまたま嫁が炊事に追われてたから俺が出られたけど、万が一嫁が出てたら、美嘉は普通に『不倫相手ですー』とかって自己紹介してそうだもん。そのくらい、あいつは読めない」
「ははっ。そしたら修二、即離婚かあ?」
「勘弁してくれよそんなの。俺は妻も子供も愛してるんだから」
「だったらその浮気癖どうにかしろよ。いつか家庭壊れるぞ」
「いいか、和樹。前にも言ったけど俺はこれからも家族を傷付けることなく不倫をする、そして家族にバレそうになったら身を呈してでもそれを防ぐ。それが俺のモットー」
「はいはい、そう言った自分をあとで後悔すんなよー。いつか絶対どっかでボロ出るんだから」
「まあ、たった一回のあやまちをすぐ奥さんに知られた和樹には無理だな」
「だ、だから過去の話はもういいって」
「お前不倫相手にゾッコンだったもんなー。どうせ家でも丸々態度に出てたんだろ」
「う、うるせえっ」

 そんな話をしながら酒を楽しんでいると、ピコンと受信したメッセージ。スマートフォンの画面には、美嘉の名前が表示された。
< 11 / 15 >

この作品をシェア

pagetop