隠し味
 外灯が一番届かないところ、高架下の中央あたりに立つ彼女は二の腕の出た白いドレス姿。腰まではタイトな作りで、そこから下はふわっとボリューミー。花嫁を思わせるそんな格好は、暗くて汚いこの場所には似つかわしくなく、鳥肌が立った。そして手元には、何かブーケのようなものが見える。

「お、お待たせ、美嘉」

 早いとこわたあめを喰らいここから去りたくて、俺は早足で彼女に近寄った。微動だにしない彼女の身体。けれど黒目だけが動き、俺を静かに捉えた。

「修二くん、急に呼び出してごめんね。わたあめがしぼむ前に食べてほしくて」
「わたあめって、それ……?」
「うん」

 美嘉の手元、屋台で見かけるものよりも大きなサイズ。俺がそれをブーケだと見間違ったのは、わたあめの根元に巻かれた真っ赤なリボンと美嘉の持ち方。腹の前、両手で持って、姿勢はよくて。しかもウエディンググローブとでもいうのだろうか、花嫁が身につける長くて白い手袋までしている。

「じゃ、じゃあいただきます」

 早速わたあめへ手を伸ばすと、それを拒むように背を反らした美嘉が「待って」と言った。

「このわたあめを修二くんが食べたら、私たち本当にお別れだもの。そんなに急がないで」

 一刻も早く美嘉と別れたい俺は、少し苛立った。

「だってしぼむ前に食べてほしいんだろ。今日は昼間に雨も降って湿気たっぷりだし、急がないとしぼんじゃうよ」
「それはそうなんだけど……」

 うーんとひとつ唸った美嘉は、ふわふわしたそのわたあめを自身の胸元まで持って上げた。
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