隠し味
「じゃあこのクイズだけ答えてみて。このわたあめに入っている隠し味はなんでしょう?」

 面倒くさいな、そう思いつつも、ことをスムーズに運びたい俺は渋々そのクイズに付き合った。

「バターとか?」
「ぶーっ」
「えっとじゃあ、また醤油?」
「あははっ。違う違うっ」
「じゃあもう降参、教えて」

 わたあめのふわふわで口を隠し、くすくす笑った美嘉は、その笑いがおさまってから珍な答えを言う。

「正解はね、まだ隠し味は入れてないの」

 はあ?と首をかしげるのは俺。

「じゃあなに。普通のわたあめってことか」
「ううん。普通じゃないよ。食べれば隠し味がわかるから」
「食べれば隠し味がわかる……?」

 美嘉の言っている意味が理解できずに間抜けなリピートをすれば、彼女の両手に力が入ったような気がした。

「はい、修二くん。これが最後のあーんだね」

 わたあめを口元まで持って来られれば、俺のテンションは上がった。
 ようやく食べられる、ようやく美嘉から解放される。そんな思いと共に、俺は今までで一番大きく口を開けた。

「修二くんといられて、楽しかったよ」

 徐々にわたあめが口へ近付いて、甘い匂いがふわっと香った。見かけはそこらへんのものよりも大きいが、中身はほとんど空気だ。一分もしないうちに食べきれる自信が俺にはある。

「ちょっと美嘉、早く」

 口の前、なかなか口内には入れてくれず焦らす美嘉に催促すると、彼女は「はいはい」と優しく微笑んだ。

「いくよ修二くん、あーんっ」

 その言葉で再び大きく開ける俺の口。そこへ思いっきりわたあめが差し込まれた時に見えた美嘉の顔は、満足そうだった。
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