隠し味
「もういい加減にしてくれよ!」
俺が美嘉の手を振り払うのと同時に、美嘉が持っていたわたあめがパサッと地面に落ちた。
自宅最寄り駅からの家路、『頭上注意。チカン注意』。そんな看板が立てられた狭くて暗い高架下で美嘉を発見するのは今日で二度目。誰もいないものだと思って歩いているのに、ふいに黒い長髪が目に飛び込んできてしまえばもう、心臓がひっくり返ってしまう。
「俺はお前なんか遊びだった!もう俺に構わないでくれ、どっか行け!」
怒号を浴びせる俺の前、ゆっくりと腹を谷折りにした美嘉がわたあめを拾う際、彼女の黒髪の先端が、筆のようにコンクリートをなぞっていった。
おもむろに持ち上がる美嘉の顔、漆黒の髪の毛は暖簾の如し。俺から確認できるのは、隙間を縫って見えた彼女の左目だけ。
手入れをされた綺麗なまつ毛が美嘉によって上げられれば、くわっと見開かれたおぞましいその瞳と目が合った。
「修二くん」
睨まれている。そう感じるのにいつもと変わらぬ美嘉の声音が余計に俺へ恐怖を与える。一歩、二歩と近付かれ、その分俺も後ずさるが、また一歩、二歩と近付かれる堂々巡り。
「来るな、来ないでくれ!」
美嘉が耳へと髪をかけたせいで、その不気味な表情が露わになった。目は魚のように感情を失っているのに、口角だけは上がっていて。
「ねえ修二くん」
そしてその穏やかな口調は、もっと気味が悪かった。
「わたしが作ったわたあめ、食べて?」
俺が美嘉の手を振り払うのと同時に、美嘉が持っていたわたあめがパサッと地面に落ちた。
自宅最寄り駅からの家路、『頭上注意。チカン注意』。そんな看板が立てられた狭くて暗い高架下で美嘉を発見するのは今日で二度目。誰もいないものだと思って歩いているのに、ふいに黒い長髪が目に飛び込んできてしまえばもう、心臓がひっくり返ってしまう。
「俺はお前なんか遊びだった!もう俺に構わないでくれ、どっか行け!」
怒号を浴びせる俺の前、ゆっくりと腹を谷折りにした美嘉がわたあめを拾う際、彼女の黒髪の先端が、筆のようにコンクリートをなぞっていった。
おもむろに持ち上がる美嘉の顔、漆黒の髪の毛は暖簾の如し。俺から確認できるのは、隙間を縫って見えた彼女の左目だけ。
手入れをされた綺麗なまつ毛が美嘉によって上げられれば、くわっと見開かれたおぞましいその瞳と目が合った。
「修二くん」
睨まれている。そう感じるのにいつもと変わらぬ美嘉の声音が余計に俺へ恐怖を与える。一歩、二歩と近付かれ、その分俺も後ずさるが、また一歩、二歩と近付かれる堂々巡り。
「来るな、来ないでくれ!」
美嘉が耳へと髪をかけたせいで、その不気味な表情が露わになった。目は魚のように感情を失っているのに、口角だけは上がっていて。
「ねえ修二くん」
そしてその穏やかな口調は、もっと気味が悪かった。
「わたしが作ったわたあめ、食べて?」