隠し味
「た、食べねえよっ」

 食い気味に俺がそう言うと、美嘉は「は?」と首をかしげた。

「どうして?食べてよ、せっかく修二くんのために作ったんだから」

 あーんと口を開けるよう求められて、戦慄の中、俺は葛藤した。

「こ、これを食べたら、俺と別れてくれるのか?」
「は?」
「この落ちたわたあめでも口に含めば、俺と別れてくれるのかよ!」

 美嘉とはもう関わりたくない、離れたい。最近の俺の頭はもっぱらそれ。家族にバレぬよううまく不倫をし続けてきたのに、この女との一件がバレてしまえば、過去のあやまちまで探られてしまう。
 家まで来たり、帰りに待ち伏せをしていたりと、美嘉の行動は酷すぎる。不倫は互いが互いの立場をわきまえ行うことで、どちらかが違反したらそれで終わり、ゲームオーバー。
 それを美嘉はわかっていない。
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