アンノウアブル!憧れだった先輩が部下になりました
 その後、外村は吐き出す様に、全ての真実を口にした。

 あの日、彼女を責めたててしまった事。

 死に追いやる様な発言をいくつもしてしまった事。

 口論の末、彼女から逃げてしまった事。

 この関係性がバレてしまうのが怖かった事。

 それぞれの発言の真意を確認する術はないが、恐らく本当の事だろうと千里は思った。

 花村唯の死因は自殺という事で処理され、外村は自殺教唆罪として起訴された。蓮見や紅葉達の尽力により事件は無事に幕を閉じたのだが…。



「で、これは何なのかな?紅葉君。蓮見君」

 
 警視庁に戻った三人を待っていたのは散らかり放題散らかった資料の山だった。
そういえば、資料整理を放り出して現場に向かった事を思い出した紅葉はさり気なく回れ右をする。

 「こら!紅葉!まだ今回の報告書あげてないでしょ!」

 「あ、明日やる…」

 「んじゃ俺も」

 「あ!こら!蓮見君も!ちょっと待ちなさい!」

 軽々と、千里のディフェンスを交わした二人は逃げる様にして姿を消してしまった。

 今し方、帰って来たばかりだというのに…

 身勝手な後輩二人にため息をつくと、仕方なく散らかった資料をまとめ始める。
 昔から、こう言った中途半端さが許せない千里は、この汚さを放っておくことができない。何でも最後までやり切らないと気が済まない性格に、自分でも難儀な性格だなと自嘲せざるを得ないが、これに関してはどうこうできる問題ではない。

 「えーっと、これはこっちの事件資料だから…、これはこっちね、それから…」

 千里は一つずつ丁寧に資料をまとめていく。

 「これはこっちで、これは…」

 「こっちだろ」

 「ああ、そうね…、ありが…と?」

 何の違和感もなく資料を手渡した相手に、千里は驚いて顔を上げる。

 「あ、貴方達帰ったんじゃなかったの?」

 そこには、つい先ほど逃げるようにして帰ったはずの蓮見と紅葉が立っていた。

 「どうしたの?何か忘れ物?」

 千里は小首を傾げると、二人を交互に見つめる。

 「いや、トイレ行こうと思ってよ…」

 「俺も…」

 何故か言葉を濁す二人に千里は「トイレならここを出てエレベーターホールを曲がった場所にあるけど?」と丁寧に説明をしてやる。

 「ってか、紅葉は場所知ってるでしょ?蓮見君に教えてあげてよ」

 「今知った」

 「んなわけ無いでしょ」

 わかりやすく嘘を吐く紅葉に、千里は再びため息を吐く。

 「じゃあ、私が案内してあげるから、さっさと仲良くトイレ済ませて帰りなさい」

 そう言って立ち上がった千里の腕を蓮見が力強く引っ張った。

 「な、何?」
 「案内はいいから、お前も帰ろうぜ。もう時間も遅ぇし、ちゃんと休まねぇと倒れちまうだろ」

 蓮見は困った表情で千里を諭す。

 「悪いけど私は遠慮しておく。それにこんな状態放って置けない」

 そう言って掴まれた腕をやんわりと解いた。
 よくよく考えたら蓮見は部署異動後の初出勤だし、紅葉は現場に来ない所を来てもらった訳だから、この整理は責任を持って自分が済ませる必要がある。

 千里はそう思い直すと再び資料へと手を伸ばす。

 「でもすげぇ量だぜ、明日改めて三人でやればいいだろ」

 「駄目よ。今こうしてる間にも事件は起こってるの。ここで資料整理を後伸ばしにしてたら、明日にはまた直ぐに量が増えて結局一生纏まらないわ」

 「馬鹿真面目女」

 「はいはい、馬鹿真面目女ですよ」

 「お前が倒れちまったら意味ねぇって」

 「そん時のための貴方達でしょ?」

 「…」

 千里の受け答えに、意外と頑固な性格であると知った蓮見は盛大にため息を吐く。

 「ったく、わかったよ。やりゃあいいんだろ?やりゃあ」

 蓮見は頭をかくと、背中に掛けていた鞄を思い切り机へと置いた。

 「別に帰っていいって言ってるじゃない」

 「あのな、いくら先輩っても年下の女を深夜のオフィスに置いてけぼりにして帰れるわけねぇだろ」

 蓮見は資料を片手に苛立たしげに答える。

 「ってかトイレはいいの?…」

 「引っ込んだ」

 「は?」

 千里は意味がわからないと言った様子で頭にクエスチョンマークを浮かべる。

 そんな二人の様子を見ていた紅葉は「面倒な男がまた一人増えた」とため息を吐くと、自身もまた背負っていた鞄を机に下ろした。
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