アンノウアブル!憧れだった先輩が部下になりました
第五章【歓迎会】
「後、百合子もいいかな?」
「ちょっと、交通課は今度合コンあるんでしょ?それよりこの前入った新卒の事務員の子も呼んでいい?紅葉君に会いたいんだって!」
「嫌だ、鑑識課にも譲りなさいよ。こっちは正統派のイケメンあんまりいないんだから」
花村唯の事件から一週間が開けた警視庁捜査一課のとあるデスク。
千里はペンを右手に頭を抱えていた。
ことの発端は三日前、珍しく鈴木さんが千里の机までやってくると、近くにあった椅子を引っ張り出してドカッと腰をかけたことから始まった。
「どうしたんです?」
普段は一対一であまり話すことの無い相手に千里は作業していた手を止める。
「いやぁ、実はこういうのはどうするべきか考えたんだが、やはりやった方がいいと思ってね」
鈴木は意味深なことを呟くと懐からセンスを取り出してパタパタと顔を扇ぐ。
「えっと…話が見えないのですが」
「やっぱ、やった方がいいんだろうなぁ」
「あの…」
「今時のもんは気にするって言うしな」
「はあ…」
こちらの反応を特段気にする様子もなく鈴木は淡々と話を続ける。
「でもやるんなら、若いもん同士の方がいいわな」
「あの、ですから何を…?」
いまいち話の筋が見えてこない千里は小首を傾げる。今日はあいにく、蓮見も紅葉も別件で席を外している手前、誰かに助けを求めることもできない。
「うん、やっぱりそうだわな。千里ちゃん。あんたによろしく頼むよ」
そう言って鈴木はズボンの後ろポケットから皺皺になった一枚の紙を手渡たすと、そのまま自席へと戻っていってしまった。
残された千里は皺皺になった紙を見つめて、呆気に取られる。そこには
『歓迎会、合コンなら居酒屋吉兆へ!』
と言う文字が記されていた。
どうやら、蓮見の歓迎会をやってくれとの事だったらしい。
(歓迎会なんてやって欲しそうには見えないけど…)
千里は蓮見の事を思い浮かべる。
どう考えても面倒なことはパスだと言いそうに思えてならない。しかし、歓迎会である以上本人に確認を取るのもおかしいような気がした。
そこで千里は仕方なく、蓮見の歓迎会周知のメールを作成し捜査一課のメンバーに一括送信したわけだが、何がどうしたのかその情報が外部に出回ってしまい、先の様な事態になっている。
かれこれこれ、数十名の女子社員が千里の元を訪れ歓迎会に呼んでほしいと懇願した。
おそらく目当ては刑事課の紅葉だとは思うが、中には一定数蓮見のファンらしき者も混ざっていた。
これが芸能事務所であれば嬉しい話ではあるが、残念ながらそうでは無いことに千里は今日何度目かわからないため息を吐く。
「そもそも、この歓迎会は捜査一課の歓迎会だから。基本的に他部者の人は呼ばないことにしてるの。これ、この前来た人達にも説明したんだけど…」
半ばキレ気味にそう伝えるが、一度盛り上がってしまった女子社員を抑え込むには千里一人では意味がない。
「他部署だけど、私交番勤務の時蓮見君に沢山お世話になったからお礼がいいたいの」
「わ、私も蓮見君には色々とお世話になったから」
「私は紅葉君と交番勤務一緒でよく世話になったのよ」
「私だって、この間廊下ですれ違ったときに…」
これでもかと出てくる女子社員のいい分に千里は頭を悩ませる。
そもそも、何故に私があの問題児の為にこんな悩まなくてはならないのか…
千里は込み上げる怒りをグッと堪えると、一先ずその場しのぎの言葉を述べる。
「あぁ、もう!わかったから!一先ず保留にさせて頂戴!とりあえず名前だけここに書いて」
千里はそういうと、近くにあった白紙のコピー用紙を引っ張り出して机に置いた。
女子社員はキャーキャー言いながら自分の名前を書いていく。何がそんなに楽しいのかー。
最後の一人が名前を書き終えると、ようやく騒がしい場所から解放される。
千里は名前が書かれたコピー用紙を片手にぐったりと項垂れると今日、一番会いたくない人間に声をかけられた。
「よ、人気者」
「それ嫌味?」
顔をあげると、先ほどまで席を外していた蓮見が意地悪そうに微笑んでいる。
「お前女子にモテんのな」
「だからそれは嫌味かって」
多分、今の言葉に悪意は無いのだろうが、今の千里にとっては全てが悪口に聞こえてしまう。
「んだよ、機嫌悪ぃな」
蓮見はそう言うと自席へと戻っていった。
お前のせいだぞ。と内心思いながらも、歓迎会をやる以上本人に愚痴はこぼせない。しかし、どうしてもこの腹立たしい思いを誰かに伝えたい千里は運良く通りかかった紅葉に声をかける。
「紅葉…」
「どうしたんスか?」
どこか疲れ切った千里の様子に、紅葉は首を傾げる。
「どうしたも何も、どうしよう…」
千里は沢山の女子社員の名前が書かれたコピー用紙を紅葉に手渡す。
「あんた何でこんな人気者なのよ…、これじゃお店に収まらないじゃない」
「何、これ」
紅葉は手渡された紙をまじまじと見つめる。
「蓮見君の歓迎会に参加したいって言うお嬢様方」
「野郎の歓迎会?」
はて、と言った様子で頭にクエスチョンマークを浮かべる紅葉に千里は再びため息を吐く。
「あんたにも、メール送ったでしょ!見てないの?」
「ああ、俺パス…」
「え、なんで!」
「なんでって…、行くわけねぇだろ。あんな野郎の歓迎会なんて」
そもそも歓迎してねーし、と呟くと紅葉は紙を千里に返す。
「どうしてよ。年齢近いじゃない」
「関係ねぇ」
「一緒に仕事した仲じゃない」
「知るかよ」
「ちょっと系統似てるじゃない」
「似てねぇ」
「…」
まったく、どいつもこいつも自分勝手であるー。
「ちょっと、交通課は今度合コンあるんでしょ?それよりこの前入った新卒の事務員の子も呼んでいい?紅葉君に会いたいんだって!」
「嫌だ、鑑識課にも譲りなさいよ。こっちは正統派のイケメンあんまりいないんだから」
花村唯の事件から一週間が開けた警視庁捜査一課のとあるデスク。
千里はペンを右手に頭を抱えていた。
ことの発端は三日前、珍しく鈴木さんが千里の机までやってくると、近くにあった椅子を引っ張り出してドカッと腰をかけたことから始まった。
「どうしたんです?」
普段は一対一であまり話すことの無い相手に千里は作業していた手を止める。
「いやぁ、実はこういうのはどうするべきか考えたんだが、やはりやった方がいいと思ってね」
鈴木は意味深なことを呟くと懐からセンスを取り出してパタパタと顔を扇ぐ。
「えっと…話が見えないのですが」
「やっぱ、やった方がいいんだろうなぁ」
「あの…」
「今時のもんは気にするって言うしな」
「はあ…」
こちらの反応を特段気にする様子もなく鈴木は淡々と話を続ける。
「でもやるんなら、若いもん同士の方がいいわな」
「あの、ですから何を…?」
いまいち話の筋が見えてこない千里は小首を傾げる。今日はあいにく、蓮見も紅葉も別件で席を外している手前、誰かに助けを求めることもできない。
「うん、やっぱりそうだわな。千里ちゃん。あんたによろしく頼むよ」
そう言って鈴木はズボンの後ろポケットから皺皺になった一枚の紙を手渡たすと、そのまま自席へと戻っていってしまった。
残された千里は皺皺になった紙を見つめて、呆気に取られる。そこには
『歓迎会、合コンなら居酒屋吉兆へ!』
と言う文字が記されていた。
どうやら、蓮見の歓迎会をやってくれとの事だったらしい。
(歓迎会なんてやって欲しそうには見えないけど…)
千里は蓮見の事を思い浮かべる。
どう考えても面倒なことはパスだと言いそうに思えてならない。しかし、歓迎会である以上本人に確認を取るのもおかしいような気がした。
そこで千里は仕方なく、蓮見の歓迎会周知のメールを作成し捜査一課のメンバーに一括送信したわけだが、何がどうしたのかその情報が外部に出回ってしまい、先の様な事態になっている。
かれこれこれ、数十名の女子社員が千里の元を訪れ歓迎会に呼んでほしいと懇願した。
おそらく目当ては刑事課の紅葉だとは思うが、中には一定数蓮見のファンらしき者も混ざっていた。
これが芸能事務所であれば嬉しい話ではあるが、残念ながらそうでは無いことに千里は今日何度目かわからないため息を吐く。
「そもそも、この歓迎会は捜査一課の歓迎会だから。基本的に他部者の人は呼ばないことにしてるの。これ、この前来た人達にも説明したんだけど…」
半ばキレ気味にそう伝えるが、一度盛り上がってしまった女子社員を抑え込むには千里一人では意味がない。
「他部署だけど、私交番勤務の時蓮見君に沢山お世話になったからお礼がいいたいの」
「わ、私も蓮見君には色々とお世話になったから」
「私は紅葉君と交番勤務一緒でよく世話になったのよ」
「私だって、この間廊下ですれ違ったときに…」
これでもかと出てくる女子社員のいい分に千里は頭を悩ませる。
そもそも、何故に私があの問題児の為にこんな悩まなくてはならないのか…
千里は込み上げる怒りをグッと堪えると、一先ずその場しのぎの言葉を述べる。
「あぁ、もう!わかったから!一先ず保留にさせて頂戴!とりあえず名前だけここに書いて」
千里はそういうと、近くにあった白紙のコピー用紙を引っ張り出して机に置いた。
女子社員はキャーキャー言いながら自分の名前を書いていく。何がそんなに楽しいのかー。
最後の一人が名前を書き終えると、ようやく騒がしい場所から解放される。
千里は名前が書かれたコピー用紙を片手にぐったりと項垂れると今日、一番会いたくない人間に声をかけられた。
「よ、人気者」
「それ嫌味?」
顔をあげると、先ほどまで席を外していた蓮見が意地悪そうに微笑んでいる。
「お前女子にモテんのな」
「だからそれは嫌味かって」
多分、今の言葉に悪意は無いのだろうが、今の千里にとっては全てが悪口に聞こえてしまう。
「んだよ、機嫌悪ぃな」
蓮見はそう言うと自席へと戻っていった。
お前のせいだぞ。と内心思いながらも、歓迎会をやる以上本人に愚痴はこぼせない。しかし、どうしてもこの腹立たしい思いを誰かに伝えたい千里は運良く通りかかった紅葉に声をかける。
「紅葉…」
「どうしたんスか?」
どこか疲れ切った千里の様子に、紅葉は首を傾げる。
「どうしたも何も、どうしよう…」
千里は沢山の女子社員の名前が書かれたコピー用紙を紅葉に手渡す。
「あんた何でこんな人気者なのよ…、これじゃお店に収まらないじゃない」
「何、これ」
紅葉は手渡された紙をまじまじと見つめる。
「蓮見君の歓迎会に参加したいって言うお嬢様方」
「野郎の歓迎会?」
はて、と言った様子で頭にクエスチョンマークを浮かべる紅葉に千里は再びため息を吐く。
「あんたにも、メール送ったでしょ!見てないの?」
「ああ、俺パス…」
「え、なんで!」
「なんでって…、行くわけねぇだろ。あんな野郎の歓迎会なんて」
そもそも歓迎してねーし、と呟くと紅葉は紙を千里に返す。
「どうしてよ。年齢近いじゃない」
「関係ねぇ」
「一緒に仕事した仲じゃない」
「知るかよ」
「ちょっと系統似てるじゃない」
「似てねぇ」
「…」
まったく、どいつもこいつも自分勝手であるー。