アンノウアブル!憧れだった先輩が部下になりました
今から遡る事、二十年前ー。
「やーい!もみじ!またサッカーの練習なんかしてんのかよ!」
「どうせチビで下手なんだから辞めちまえよ!」
「チビもみじは女子と鬼ごっこでもしてろ!」
今とは違って、当時小学四年生だった紅葉は身長も小さく、顔が女顔だったため男子から気持ち悪いと酷く虐められていた。
いつもサッカーの仲間には入れてもらえず、一人で壁相手にボールを蹴っていた。
皆んなはそんな紅葉のことを「こうよう」とは呼ばず、「もみじ」と呼んでからかった。
そんなある日のこと、
紅葉がいつも通り、サッカーをしようと公園に向かうと、そこにはいつもいないはずのいじめっ子達が腕を組んで紅葉のことを待ち構えていた。
「おい!もみじ!今日はよくも試合で俺に恥を描かせてくれたな!」
どうやら、体育の時間に行われた試合のことを言っているのだろう。
「別に、あんたが下手なだけだろ」
「あ?下手だと?チビのくせに偉そうにしやがって」
いじめっ子達は紅葉を取り囲むとサッカーボールを奪って紅葉の事を蹴り飛ばした。
盛大に尻餅をついた紅葉は両腕を掴まれ、リーダー格の男に殴られる。
「俺がどれだけ恥かいたとおもってやがる!」
「そんなの知るか!」
「生意気いってんじゃねえ!」
そう言っていじめっ子達は紅葉の顔が腫れるまで紅葉を攻撃し続けた。途中何度か抵抗して見せたが体の小さな紅葉の抵抗は何の意味も無さなかった。
ひとしきり殴られた紅葉はゴミのように公園に放置されると、一人空を仰いだ。
(綺麗だな…)
呑気にそんな事を考えながら、ふと先ほど奪われたサッカーボールのことを思い出す。
(取り戻さなきゃ…)
そう考えて、身体を起こす。全身にズキっと痛みが広がるが、そんな事は気にせずに辺りを見渡した。
しかし、ボールらしきものはどこにも見当たらない。
確かに先ほど、いじめっ子達がボールを取り上げたことだけは記憶しているが、殴られた為記憶が曖昧だ。
(クソ、どこにやった)
紅葉はゆっくりとした足取りで茂みの中や遊具の中を確認する。
しかし、ボールは一向に見つからない。
ついに、五時を知らせるチャイムが公園内に響き渡った。
紅葉はボロボロの身体を引き摺りながら寒空の下、サッカーボールを探し回った。
途中、クラスメイトの女子三人組とすれ違ったが、皆んな見て見ぬふりをして通り過ぎていった。
どんどん日が暮れていく中、遂に紅葉はサッカーボールを探すのを諦めた。
膝に顔を埋め、どうにもならない現実に泣いていた。
自分の誕生日に買ってもらったサッカーボール。
スポーツセンターで好きなのを選んでいいと言われて選んだ自慢のボール。
唯一の友達であった大切なボール。
そんな事を考えると堪らなく悲しくなった。
目からはとめど無く涙が溢れて地面へと落ちていく。
そんな時だったー。
「ねぇ、君」
「…」
突然呼ばれた声に、紅葉はゆっくりと顔を上げる。
「君、こうよう君?」
「そうだけど…なんだよ」
そこには一人の女の子が立っていた。どこか心配した表情で紅葉の事を見つめる。
「あのね、これ」
そう言ってその子は紅葉が探していたサッカーボールを大きな肩掛けカバンから取り出した。
ボールには確かに紅葉薫と書かれている。
「これ…、どこに?」
「私が行ってる小学校の裏庭に転がってた」
「裏庭?」
「男の子のグループがこれを隠してるのを見ちゃったの」
「それで、わざわざ?」
「だって、凄い使い古してあったし、きっと隠された子は今頃探してるだろうなって思って」
そう言って女の子は微笑む。紅葉は泣き顔を見られたことと、女の子にボールを持ってきてもらった気恥ずかしさから顔を思い切り袖で擦る。
「あ、ありがとう。助かった」
「どういたしまして。ねぇ、下の名前なんて読むの?」
女の子は興味津々にボールに書かれた名前の部分を指差す。
「かおる…、女みたいな名前だよな」
また笑われるのでは無いだろうかと思って紅葉はソッポを向く。
「かおる君っていうの?いいなぁ、芸能人みたい!」
想像とは違う反応に紅葉は目を丸くする。
「俺はあんま好きじゃ無い」
「どうして?」
「だって、どう考えたって女みたいな名前じゃん!」
紅葉は少し向きになって、声を張り上げる。
「そんな事ないと思うけどな、それを言ったら私の名前なんてお坊さんみたいだよ?」
そう言って女の子は近くに落ちてた木の枝を拾って砂場に見た事ない感じを書き始めた。
「はい!これが私の名前」
「…なんとか、せん、り?」
紅葉は一瞬、「ちさと」と迷ったがお坊さんみたいな名前と聞いてそのまま読んだ。
「これはね、あがつま、って言うの」
「あがつま?」
「そう。あがつませんり。ね?なんだかお坊さんみたいな名前でしょ?」
そう言って照れくさそうに微笑む千里に紅葉は思わず口元を抑える。
「ククク…、確かに、凄ぇ名前」
「ちょっと!笑わないでよ!結構気にしてるんだから」
千里は頬を膨らませると地面に書いた名前を足でゴシゴシと消した。
「でも、俺はカッコよくて好き」
「私はなんか固くて嫌」
そう言うと、二人は顔を見合わせて微笑んだ。
今思えば、これが紅葉の初恋だった。
「やーい!もみじ!またサッカーの練習なんかしてんのかよ!」
「どうせチビで下手なんだから辞めちまえよ!」
「チビもみじは女子と鬼ごっこでもしてろ!」
今とは違って、当時小学四年生だった紅葉は身長も小さく、顔が女顔だったため男子から気持ち悪いと酷く虐められていた。
いつもサッカーの仲間には入れてもらえず、一人で壁相手にボールを蹴っていた。
皆んなはそんな紅葉のことを「こうよう」とは呼ばず、「もみじ」と呼んでからかった。
そんなある日のこと、
紅葉がいつも通り、サッカーをしようと公園に向かうと、そこにはいつもいないはずのいじめっ子達が腕を組んで紅葉のことを待ち構えていた。
「おい!もみじ!今日はよくも試合で俺に恥を描かせてくれたな!」
どうやら、体育の時間に行われた試合のことを言っているのだろう。
「別に、あんたが下手なだけだろ」
「あ?下手だと?チビのくせに偉そうにしやがって」
いじめっ子達は紅葉を取り囲むとサッカーボールを奪って紅葉の事を蹴り飛ばした。
盛大に尻餅をついた紅葉は両腕を掴まれ、リーダー格の男に殴られる。
「俺がどれだけ恥かいたとおもってやがる!」
「そんなの知るか!」
「生意気いってんじゃねえ!」
そう言っていじめっ子達は紅葉の顔が腫れるまで紅葉を攻撃し続けた。途中何度か抵抗して見せたが体の小さな紅葉の抵抗は何の意味も無さなかった。
ひとしきり殴られた紅葉はゴミのように公園に放置されると、一人空を仰いだ。
(綺麗だな…)
呑気にそんな事を考えながら、ふと先ほど奪われたサッカーボールのことを思い出す。
(取り戻さなきゃ…)
そう考えて、身体を起こす。全身にズキっと痛みが広がるが、そんな事は気にせずに辺りを見渡した。
しかし、ボールらしきものはどこにも見当たらない。
確かに先ほど、いじめっ子達がボールを取り上げたことだけは記憶しているが、殴られた為記憶が曖昧だ。
(クソ、どこにやった)
紅葉はゆっくりとした足取りで茂みの中や遊具の中を確認する。
しかし、ボールは一向に見つからない。
ついに、五時を知らせるチャイムが公園内に響き渡った。
紅葉はボロボロの身体を引き摺りながら寒空の下、サッカーボールを探し回った。
途中、クラスメイトの女子三人組とすれ違ったが、皆んな見て見ぬふりをして通り過ぎていった。
どんどん日が暮れていく中、遂に紅葉はサッカーボールを探すのを諦めた。
膝に顔を埋め、どうにもならない現実に泣いていた。
自分の誕生日に買ってもらったサッカーボール。
スポーツセンターで好きなのを選んでいいと言われて選んだ自慢のボール。
唯一の友達であった大切なボール。
そんな事を考えると堪らなく悲しくなった。
目からはとめど無く涙が溢れて地面へと落ちていく。
そんな時だったー。
「ねぇ、君」
「…」
突然呼ばれた声に、紅葉はゆっくりと顔を上げる。
「君、こうよう君?」
「そうだけど…なんだよ」
そこには一人の女の子が立っていた。どこか心配した表情で紅葉の事を見つめる。
「あのね、これ」
そう言ってその子は紅葉が探していたサッカーボールを大きな肩掛けカバンから取り出した。
ボールには確かに紅葉薫と書かれている。
「これ…、どこに?」
「私が行ってる小学校の裏庭に転がってた」
「裏庭?」
「男の子のグループがこれを隠してるのを見ちゃったの」
「それで、わざわざ?」
「だって、凄い使い古してあったし、きっと隠された子は今頃探してるだろうなって思って」
そう言って女の子は微笑む。紅葉は泣き顔を見られたことと、女の子にボールを持ってきてもらった気恥ずかしさから顔を思い切り袖で擦る。
「あ、ありがとう。助かった」
「どういたしまして。ねぇ、下の名前なんて読むの?」
女の子は興味津々にボールに書かれた名前の部分を指差す。
「かおる…、女みたいな名前だよな」
また笑われるのでは無いだろうかと思って紅葉はソッポを向く。
「かおる君っていうの?いいなぁ、芸能人みたい!」
想像とは違う反応に紅葉は目を丸くする。
「俺はあんま好きじゃ無い」
「どうして?」
「だって、どう考えたって女みたいな名前じゃん!」
紅葉は少し向きになって、声を張り上げる。
「そんな事ないと思うけどな、それを言ったら私の名前なんてお坊さんみたいだよ?」
そう言って女の子は近くに落ちてた木の枝を拾って砂場に見た事ない感じを書き始めた。
「はい!これが私の名前」
「…なんとか、せん、り?」
紅葉は一瞬、「ちさと」と迷ったがお坊さんみたいな名前と聞いてそのまま読んだ。
「これはね、あがつま、って言うの」
「あがつま?」
「そう。あがつませんり。ね?なんだかお坊さんみたいな名前でしょ?」
そう言って照れくさそうに微笑む千里に紅葉は思わず口元を抑える。
「ククク…、確かに、凄ぇ名前」
「ちょっと!笑わないでよ!結構気にしてるんだから」
千里は頬を膨らませると地面に書いた名前を足でゴシゴシと消した。
「でも、俺はカッコよくて好き」
「私はなんか固くて嫌」
そう言うと、二人は顔を見合わせて微笑んだ。
今思えば、これが紅葉の初恋だった。