アンノウアブル!憧れだった先輩が部下になりました
「えー、皆さん本日はお集まりいただきありがとうございます。今日は蓮見捜査官の歓迎会という事で是非この機会に親睦を深めていただけたらと思います。では、か、乾杯!」
「「乾杯!」」
ぎこちない乾杯の音頭を終えると千里は思い切りため息を吐いてその場に座り込んだ。
どうにも人前で喋るのは苦手である。
結局、紅葉不参加の状態で何とか開催にこぎつけた蓮見の歓迎会は、参加者の約半数以上が女子という形になった。本来警視庁の集まりは男性が多いのだが、年齢が近い者を集めた結果、何故かこのような形となってしまった。
蓮見は意外にも素直に歓迎会に参加してくれた。
当初は嫌がるか、断られるかと思っていたのだが、声をかけると「おう、まじか」と珍しい反応を見せた。やはり、どんな人間であってもこうやって会を開かれるのは嬉しい物なのかもしれない。
「えー!蓮見君ってサッカー選手目指してたんだ!」
「高校の時強かったんだって?すごーい!」
「え?お父さん警視総監なの?ヤバーい!」
そんな主役は、蓮見狙いの女子に囲まれキャバクラさながらの状態になっている。
「あいつ、すげー人気だな。俺達必要だったか?」
「いらねーだろ。なぁ?我妻?」
同僚の斎藤と高橋がつまらなそうにビールを口にする。
「まぁまぁ、そんな事言わないで!あ、斎藤!唐揚げ食べる?」
斎藤と高橋は千里より二つ上であるが、警察学校からの腐れ縁である。
二人とも彼女いない歴年齢で、斎藤に至ってはすでに悟りを開きかけている。
「なー、我妻ー。誰か紹介しろよー。ってかお前彼氏いんの?居ねえなら俺とかどうよ?」
高橋はいつも酒が入ると千里を口説く。これは警察学校時代からの癖で、未だにこれが出てくると笑いが込み上げてしまう。
「高橋君はイケメンすぎて私には勿体無いかなー」
「そーだよな、俺イケメンすぎんのが良くねぇんだよな…、って我妻!お前いい加減にしろよ!」
「お前ら、その絡み好きだな」
斎藤がこうやってツッコミを入れるのも、もう恒例のことである。
***
蓮見の歓迎会は、滞り無く進行した。途中、女子達の黄色い悲鳴が少し気になったが、蓮見もまんざら嫌では無さそうである。
最初は僻んでいた斎藤と高橋も気付けばその輪に入り、蓮見の周りは男も女も関係なく盛り上がり始めた。
もともと、人たらしの特性を持つ蓮見のことだから、男性と打ち解けるのも早い物で、気付けば高橋が「いやー、蓮見!俺はお前のことを勘違いしてた!お前いい男だわ!」なんて太鼓持ちを始める始末である。
「おい!我妻ちゃん!こっちにビール追加!」
「我妻ちゃんって…、はいはい、他には?」
「私サラダ!」
「私カシオレ!」
「はいはい…」
幹事を引き受けてしまったために千里は仕方なく皆んなの御用聞に回る。
だいぶお酒も周り始めた頃ー、
蓮見の近くにいた女子が、わざわざ千里の元までくると静かに耳打ちした。
「蓮見君。なんか、体調悪そうなんだけど…」
「え!」
驚いて蓮見の方を見ると、相当飲まされたのか、机の上に突っ伏している。
千里は慌てて集団の中に入り蓮見の肩を叩く。
「蓮見君、大丈夫?気分悪い?」
「おー、ちょっと飲みすぎた…」
「もう、どんだけ飲んだのよ!」
近くにいた斎藤と高橋に尋ねると、周囲にいた酒の強い女子に相当量飲まされたらしい。
「蓮見ー!なんだよ、お前!酒弱えーのか!かわいいな!この野郎!」
高橋が完全に出来上がった状態で蓮見に絡む。
「ちょっと、高橋君。やめなさいよ」
蓮見はというと具合の悪そうな顔で「悪ぃ、ちょっと風に当たってくるわ」といって席を外した。
時刻はすでに夜の十時を回っており、千里はそろそろ歓迎会を締めくくるため手を叩く。
「はい!皆さん!もう十時回ってるので、一度お開きにします!まだ飲みたい人はどうぞ、残って下さい。ただこのお店は十一時に閉店になりますので、お店の人に迷惑かけないように!」
そう言って、前もって集めたお金で支払いを済ませ終わると千里は急いで夜風に当たりにいった蓮見の元へと急ぐ。
途中、斎藤らに「お!蓮見君の介抱ですか!いいですねー!」と野次を飛ばされたのはこの際無視だ。
出口を出ると、近くにある花の植え込み近くで蓮見は頭をもたげて座り込んでいるのが見えた。
「蓮見君!大丈夫?気分悪いの?」
「…」
「今からタクシー呼ぶから待っててね。住所どこらへんかな?」
「…」
「それともトイレいく?」
その時だった、
「トイレも、タクシーも要らねぇよ」
「え?」
蓮見は突然その場に何事もなく立ち上がると、駅とは反対方面に向かって歩き出す。
その足取りは至って普通で、千里は慌てて蓮見の背中を追いかける。
「ちょ、蓮見君!」
千里の声に蓮見は立ち止まると、今までのことが何事も無かったかのように「何?」と振り返る。
「た、体調は?気持ち悪いんじゃ無かったの?」
「あぁ、治った」
「治ったって…」
先程とは全く違う態度に千里は戸惑う。
「じゃあ、帰ろうよ。それに駅はあっちだよ?」
「知ってる」
蓮見はそういうと、再び歩き始める。
「ちょっと、どこ行くの?元気そうなら私帰るよ?」
後ろ髪を引かれる思いではあったが、なんだか元気そうな蓮見の相手をするのも如何なものかと思い、仕方なく駅の方面へと向かって歩き出す。
お礼くらい言ってくれてもよかったのに…。
千里は少しそんなことを思った。せっかく蓮見のために計画した歓迎会。「ありがとう」の一言もないのは少し悲しい気持ちもする。
どこか切ない気持ちで、トボトボと駅までの道を歩く。途中、騒がしい大学生の集団とすれ違ったが、今の千里にはそんな騒がしさも耳に入らなかった。
「やっぱり迷惑だったかな…」
「迷惑なわけねーだろ」
「…」
突然聞こえた蓮見の声に千里は慌てて顔をあげる。
「んだよ…」
「蓮見君!な、な、な、何で!」
そこには少し息を切らした蓮見が千里の顔を覗き込んでいた。
「あぁ、ちょっとコンビニ寄りたくて…」
そう言って指差す方向には確かにコンビニが確認できる。
「あぁ、なるほど…」
どこか、変に納得する千里に蓮見は笑う。
「な、何かおかしかった?」
「いや、ごめん。ほら、お礼に何か買ってやるから元気出せ」
そう言って蓮見は千里の頭をポンポンと撫でる。
きっと素面の状態なら、今の行動に舞い上がっているところだが、酔いが回っているせいで頭が上手く回らない。
どこかぼうっとした面持ちで、蓮見についていく。
コンビニ着いた蓮見は、酒類をどんどん買い物カゴへと放り込んだ。
「は、蓮見君。まだ飲むの?」
先ほどまで体調が悪いのでは無かったのかー。
千里は目を丸くしながら、買い物カゴの中を眺める。ビール、酎ハイ、ハイボールと種類は様々だ。
「あんなんじゃ酔えねぇだろ。おら、お前も好きなの入れろ」
なんだか、先ほどの蓮見より楽しそうに見えるのは千里の気のせいだろうか。
「じゃあ、私はデザートを」
そう言って千里はカスタードプリンを一つカゴの中に放り込んだ。
「「乾杯!」」
ぎこちない乾杯の音頭を終えると千里は思い切りため息を吐いてその場に座り込んだ。
どうにも人前で喋るのは苦手である。
結局、紅葉不参加の状態で何とか開催にこぎつけた蓮見の歓迎会は、参加者の約半数以上が女子という形になった。本来警視庁の集まりは男性が多いのだが、年齢が近い者を集めた結果、何故かこのような形となってしまった。
蓮見は意外にも素直に歓迎会に参加してくれた。
当初は嫌がるか、断られるかと思っていたのだが、声をかけると「おう、まじか」と珍しい反応を見せた。やはり、どんな人間であってもこうやって会を開かれるのは嬉しい物なのかもしれない。
「えー!蓮見君ってサッカー選手目指してたんだ!」
「高校の時強かったんだって?すごーい!」
「え?お父さん警視総監なの?ヤバーい!」
そんな主役は、蓮見狙いの女子に囲まれキャバクラさながらの状態になっている。
「あいつ、すげー人気だな。俺達必要だったか?」
「いらねーだろ。なぁ?我妻?」
同僚の斎藤と高橋がつまらなそうにビールを口にする。
「まぁまぁ、そんな事言わないで!あ、斎藤!唐揚げ食べる?」
斎藤と高橋は千里より二つ上であるが、警察学校からの腐れ縁である。
二人とも彼女いない歴年齢で、斎藤に至ってはすでに悟りを開きかけている。
「なー、我妻ー。誰か紹介しろよー。ってかお前彼氏いんの?居ねえなら俺とかどうよ?」
高橋はいつも酒が入ると千里を口説く。これは警察学校時代からの癖で、未だにこれが出てくると笑いが込み上げてしまう。
「高橋君はイケメンすぎて私には勿体無いかなー」
「そーだよな、俺イケメンすぎんのが良くねぇんだよな…、って我妻!お前いい加減にしろよ!」
「お前ら、その絡み好きだな」
斎藤がこうやってツッコミを入れるのも、もう恒例のことである。
***
蓮見の歓迎会は、滞り無く進行した。途中、女子達の黄色い悲鳴が少し気になったが、蓮見もまんざら嫌では無さそうである。
最初は僻んでいた斎藤と高橋も気付けばその輪に入り、蓮見の周りは男も女も関係なく盛り上がり始めた。
もともと、人たらしの特性を持つ蓮見のことだから、男性と打ち解けるのも早い物で、気付けば高橋が「いやー、蓮見!俺はお前のことを勘違いしてた!お前いい男だわ!」なんて太鼓持ちを始める始末である。
「おい!我妻ちゃん!こっちにビール追加!」
「我妻ちゃんって…、はいはい、他には?」
「私サラダ!」
「私カシオレ!」
「はいはい…」
幹事を引き受けてしまったために千里は仕方なく皆んなの御用聞に回る。
だいぶお酒も周り始めた頃ー、
蓮見の近くにいた女子が、わざわざ千里の元までくると静かに耳打ちした。
「蓮見君。なんか、体調悪そうなんだけど…」
「え!」
驚いて蓮見の方を見ると、相当飲まされたのか、机の上に突っ伏している。
千里は慌てて集団の中に入り蓮見の肩を叩く。
「蓮見君、大丈夫?気分悪い?」
「おー、ちょっと飲みすぎた…」
「もう、どんだけ飲んだのよ!」
近くにいた斎藤と高橋に尋ねると、周囲にいた酒の強い女子に相当量飲まされたらしい。
「蓮見ー!なんだよ、お前!酒弱えーのか!かわいいな!この野郎!」
高橋が完全に出来上がった状態で蓮見に絡む。
「ちょっと、高橋君。やめなさいよ」
蓮見はというと具合の悪そうな顔で「悪ぃ、ちょっと風に当たってくるわ」といって席を外した。
時刻はすでに夜の十時を回っており、千里はそろそろ歓迎会を締めくくるため手を叩く。
「はい!皆さん!もう十時回ってるので、一度お開きにします!まだ飲みたい人はどうぞ、残って下さい。ただこのお店は十一時に閉店になりますので、お店の人に迷惑かけないように!」
そう言って、前もって集めたお金で支払いを済ませ終わると千里は急いで夜風に当たりにいった蓮見の元へと急ぐ。
途中、斎藤らに「お!蓮見君の介抱ですか!いいですねー!」と野次を飛ばされたのはこの際無視だ。
出口を出ると、近くにある花の植え込み近くで蓮見は頭をもたげて座り込んでいるのが見えた。
「蓮見君!大丈夫?気分悪いの?」
「…」
「今からタクシー呼ぶから待っててね。住所どこらへんかな?」
「…」
「それともトイレいく?」
その時だった、
「トイレも、タクシーも要らねぇよ」
「え?」
蓮見は突然その場に何事もなく立ち上がると、駅とは反対方面に向かって歩き出す。
その足取りは至って普通で、千里は慌てて蓮見の背中を追いかける。
「ちょ、蓮見君!」
千里の声に蓮見は立ち止まると、今までのことが何事も無かったかのように「何?」と振り返る。
「た、体調は?気持ち悪いんじゃ無かったの?」
「あぁ、治った」
「治ったって…」
先程とは全く違う態度に千里は戸惑う。
「じゃあ、帰ろうよ。それに駅はあっちだよ?」
「知ってる」
蓮見はそういうと、再び歩き始める。
「ちょっと、どこ行くの?元気そうなら私帰るよ?」
後ろ髪を引かれる思いではあったが、なんだか元気そうな蓮見の相手をするのも如何なものかと思い、仕方なく駅の方面へと向かって歩き出す。
お礼くらい言ってくれてもよかったのに…。
千里は少しそんなことを思った。せっかく蓮見のために計画した歓迎会。「ありがとう」の一言もないのは少し悲しい気持ちもする。
どこか切ない気持ちで、トボトボと駅までの道を歩く。途中、騒がしい大学生の集団とすれ違ったが、今の千里にはそんな騒がしさも耳に入らなかった。
「やっぱり迷惑だったかな…」
「迷惑なわけねーだろ」
「…」
突然聞こえた蓮見の声に千里は慌てて顔をあげる。
「んだよ…」
「蓮見君!な、な、な、何で!」
そこには少し息を切らした蓮見が千里の顔を覗き込んでいた。
「あぁ、ちょっとコンビニ寄りたくて…」
そう言って指差す方向には確かにコンビニが確認できる。
「あぁ、なるほど…」
どこか、変に納得する千里に蓮見は笑う。
「な、何かおかしかった?」
「いや、ごめん。ほら、お礼に何か買ってやるから元気出せ」
そう言って蓮見は千里の頭をポンポンと撫でる。
きっと素面の状態なら、今の行動に舞い上がっているところだが、酔いが回っているせいで頭が上手く回らない。
どこかぼうっとした面持ちで、蓮見についていく。
コンビニ着いた蓮見は、酒類をどんどん買い物カゴへと放り込んだ。
「は、蓮見君。まだ飲むの?」
先ほどまで体調が悪いのでは無かったのかー。
千里は目を丸くしながら、買い物カゴの中を眺める。ビール、酎ハイ、ハイボールと種類は様々だ。
「あんなんじゃ酔えねぇだろ。おら、お前も好きなの入れろ」
なんだか、先ほどの蓮見より楽しそうに見えるのは千里の気のせいだろうか。
「じゃあ、私はデザートを」
そう言って千里はカスタードプリンを一つカゴの中に放り込んだ。