アンノウアブル!憧れだった先輩が部下になりました
第六章【紅葉パニック】
ここ最近、先輩の機嫌がいいことに紅葉は何故か悶々とした気分で過ごしていた。
いつもなら、その可愛い眉間に皺を寄せて険しい顔をしている先輩だが、近頃はどこか表情が穏やかで、時折鼻歌なんかも聞こえてくる。
デスクが近いから余計、そんな事が気になってしまう紅葉はモニターから目を外すと、斜め前に座る千里の顔をまじまじと眺める。
(歓迎会で何かあったなー。)
先ほどからそんな事が頭をよぎって仕事に集中できない。いつもなら淡々と終わらせる事ができる仕事も今日は珍しく思うように進まない。
「おい」
そんな時、唐突に隣の席から声をかけられた。
「…」
しかし、紅葉はその相手からの言葉を無視する。
「紅葉、てめぇ…、無視とはいい度胸だな、無視とは」
理由は簡単だ。相手が蓮見だからである。
「わかったんなら黙って仕事しろ」
「だから、終わったから確認してくれって言ったんだよ、二段階チェックしろっつたのはお前だろ!」
隣の席でギャンギャン騒ぐ蓮見に紅葉はわかりやすくため息を吐く。
そもそも、何故この席配置なのか紅葉は納得がいかない。蓮見が来るまでは隣には誰もおらず、のびのびと仕事に打ち込む事ができたが、今は図体のデカい男が二人も並んでいるのだから窮屈で仕方がない。
「ったく、ここに置いておくからちゃんと確認しろよな?」
蓮見はそう言ってファイルを紅葉のデスクに置くと、そのまま席を外して何処かへと姿を消してしまった。
紅葉は内心舌打ちしながら、仕方なく置かれたファイルを捲る。仕事とはいえ、このよくわからない事務処理は警察の仕事の中でも一番苦痛な部類に入る。
ただでさえ、朝から不機嫌だというのにやりたくもない確認作業を押し付けられた紅葉は先程から貧乏ゆすりが治らない。
(あぁ、サッカーしてぇ…。)
大学時代に足を怪我してからというもの、紅葉の人生は明らかに退屈なものへと変わってしまった。
毎日サッカーのことだけを考えていた少年時代。例え日常で嫌な事が起きても、サッカーさえできれば心の平穏は保たれた。しかし、今は違う。とにかく、今の紅葉にはストレスを発散する捌け口がないのだ。
眉間に皺を寄せながら資料と格闘していると、再び誰かに声をかけられる。
「紅葉、紅葉」
そのよく聞き慣れた心地よい声に、今度は素直に顔をあげる。
「何」
「蓮見君どこに行ったか知ってる?」
「…」
(あぁ、クソ。どいつもこいつも…)
「あんたさっきまで話してたじゃない」
「あれが先輩には会話に見えたんですか?」
「ごめん、あんまり詳しくは聞こえなかったから…」
紅葉の機嫌があまり良くないことを察した千里は何故か謝罪の言葉を口にする。
これは千里の昔からの癖だ。
「知らないなら、いいんだ。集中してるところ邪魔しちゃってごめんね」
千里はそういうと、蓮見を探すため席を立ち上がった。その行動に紅葉は慌てて言葉を付け加える。
「多分、休憩室だと思うけど…。俺もついてっていい?」
「いいけど、いいの?それ」
「ちょっと休憩」
紅葉はそう呟くと、スーツの上着を羽織る。
少し歩いた方が気分も晴れるだろう。
いつもなら、その可愛い眉間に皺を寄せて険しい顔をしている先輩だが、近頃はどこか表情が穏やかで、時折鼻歌なんかも聞こえてくる。
デスクが近いから余計、そんな事が気になってしまう紅葉はモニターから目を外すと、斜め前に座る千里の顔をまじまじと眺める。
(歓迎会で何かあったなー。)
先ほどからそんな事が頭をよぎって仕事に集中できない。いつもなら淡々と終わらせる事ができる仕事も今日は珍しく思うように進まない。
「おい」
そんな時、唐突に隣の席から声をかけられた。
「…」
しかし、紅葉はその相手からの言葉を無視する。
「紅葉、てめぇ…、無視とはいい度胸だな、無視とは」
理由は簡単だ。相手が蓮見だからである。
「わかったんなら黙って仕事しろ」
「だから、終わったから確認してくれって言ったんだよ、二段階チェックしろっつたのはお前だろ!」
隣の席でギャンギャン騒ぐ蓮見に紅葉はわかりやすくため息を吐く。
そもそも、何故この席配置なのか紅葉は納得がいかない。蓮見が来るまでは隣には誰もおらず、のびのびと仕事に打ち込む事ができたが、今は図体のデカい男が二人も並んでいるのだから窮屈で仕方がない。
「ったく、ここに置いておくからちゃんと確認しろよな?」
蓮見はそう言ってファイルを紅葉のデスクに置くと、そのまま席を外して何処かへと姿を消してしまった。
紅葉は内心舌打ちしながら、仕方なく置かれたファイルを捲る。仕事とはいえ、このよくわからない事務処理は警察の仕事の中でも一番苦痛な部類に入る。
ただでさえ、朝から不機嫌だというのにやりたくもない確認作業を押し付けられた紅葉は先程から貧乏ゆすりが治らない。
(あぁ、サッカーしてぇ…。)
大学時代に足を怪我してからというもの、紅葉の人生は明らかに退屈なものへと変わってしまった。
毎日サッカーのことだけを考えていた少年時代。例え日常で嫌な事が起きても、サッカーさえできれば心の平穏は保たれた。しかし、今は違う。とにかく、今の紅葉にはストレスを発散する捌け口がないのだ。
眉間に皺を寄せながら資料と格闘していると、再び誰かに声をかけられる。
「紅葉、紅葉」
そのよく聞き慣れた心地よい声に、今度は素直に顔をあげる。
「何」
「蓮見君どこに行ったか知ってる?」
「…」
(あぁ、クソ。どいつもこいつも…)
「あんたさっきまで話してたじゃない」
「あれが先輩には会話に見えたんですか?」
「ごめん、あんまり詳しくは聞こえなかったから…」
紅葉の機嫌があまり良くないことを察した千里は何故か謝罪の言葉を口にする。
これは千里の昔からの癖だ。
「知らないなら、いいんだ。集中してるところ邪魔しちゃってごめんね」
千里はそういうと、蓮見を探すため席を立ち上がった。その行動に紅葉は慌てて言葉を付け加える。
「多分、休憩室だと思うけど…。俺もついてっていい?」
「いいけど、いいの?それ」
「ちょっと休憩」
紅葉はそう呟くと、スーツの上着を羽織る。
少し歩いた方が気分も晴れるだろう。