アンノウアブル!憧れだった先輩が部下になりました
第七章【まさかの張り込み】
 蓮見と紅葉がサッカー対決を終えた翌日のこと、千里は再び内藤から呼び出しを受けていた。

 きっとこの前の三人揃って遅刻した件だろうと、千里は重たい気分で呼び出された会議室の扉を開ける。

 「うっす」

 しかし、そこには意外な人物が二人、席に腰掛けていた。

 一人は片手にコーヒーを、もう一人は片手にスマホを持って何やらしている。

 「なんで、貴方達もここにいるのよ…」

 千里は全然久しくない二人の顔ぶれにため息を吐く。

 「何でって、呼び出されたんだよ…」

 蓮見が携帯をポケットへとしまうと、鬱陶しそうに前髪をかきあげる。

 「先輩は何も悪くないっス、全部こいつの責任」

 隣でコーヒーを飲んでいた紅葉が、呼び出しの責任を蓮見になすり付ける。

 「は?んでだよ、そもそもお前がこいつのアドレス知りたいなんて言うからだろ」

 蓮見は不愉快そうに眉を顰める。

 「サッカー勝負しろって言ったのはテメェだろ…」

 「ノリ気で勝負してたやつのセリフかよ」

 「あんだと?、そもそもてめぇが先輩のアドレス聞くからだろーが」

 相変わらず不穏な雰囲気の二人に千里はため息を吐く。

 一体いつになれば、仲良くなってくれるのか。

 「おい、いつまで突っ立っている。そろそろ始めるぞ」

 突然聞こえた声に千里は驚いて部屋の片隅を見る。

 「な、内藤さん。そこにいらしたんですか…」

 二人の存在感が大きすぎて気づかなかった千里は、慌てて空いた席へと腰掛ける。

 「忙しいところ呼び出してすまない」

 「「ほんとっすよ」」

 内藤の言葉に蓮見と紅葉の言葉が重なる。

 「あ!あんた達いい加減にしなさいよ、す、すみせん。内藤さん…」

 二人の背中を叩くと、千里は慌てて内藤へと謝罪する。

 「いや、構わん。事実だしな…」

 しかし、内藤はキレる所か口元に笑みをこぼしてそう答えた。

 「お前達を招集した理由は他でもない。近年巷を騒がせている犯罪グループの取引き現場を張り込みしてもらうためだ」

 内藤はそういうと、プロジェクターにとある犯罪グループの写真一覧を映し出した。

 「ここに載っている奴らは、麻薬の取り引きを主に行なっている。最近とある高級マンションで取引が行われているとの情報が入った。君達にはその証拠となる瞬間を抑えて欲しい」

 「ちょっと、待ってくださいよ。そんなん俺らじゃなくて麻取りにやらせたらいいでしょう」

 蓮見は面倒そうに首を回す。

 「悪いがどこも人員不足なんだ。特に麻取りは近年増え続けている半グレ集団の薬物乱用事件にも人員を取られている。その為うちから何人か捜査員を貸し出す必要がでてきた」

 内藤の言葉に蓮見はわかりやすくため息を吐く。

 「この新人は書類整理で忙しいみたいなんで、俺と先輩で捜査にあたりますよ」

 紅葉はそう言ってコーヒーを一口啜る。

 「んな事言ってねぇだろ」

 「行きたくねぇなら書類と睨めっこでもしてろよ」

 「あんだと…」

 「はいはい!喧嘩しない!」

 今にも喧嘩が勃発しそうな雰囲気に千里が手を叩く。

 「それより、場所はどこなんです?場合に寄っては一人を警視庁に残してローテーションする形になりますが…」

 流石に事務処理をすっぽかす訳にはいかない。以前、二人に手伝って貰ったとはいえ、まだまだらやることは山のようにある。

 「あぁ、それで構わない。一人でも構わないが、やはり現場を抑えるとなると二人が妥当だろうな」

 内藤はそういうと、プロジェクターの電源を落とした。

 「では、宜しく頼む。何か困った事があれば連絡してくれ。私からは以上だ」
< 23 / 41 >

この作品をシェア

pagetop