アンノウアブル!憧れだった先輩が部下になりました
紅葉が聞き込みの為、部屋を後にすると蓮見は暇そうに大きく伸びをした。
「駄目だ…、超暇…」
どうやら全く動きのない状況に飽き飽きしているらしい。
「こら、ちゃんと監視しといてよね。取引現場押さえないといけないんだから…」
千里は自身のノートパソコンから目を離す事なく答える。
「なんかもっと他に方法あんだろ…効率悪すぎ…」
蓮見は頭を掻きながら、文句を垂れる。
確かに地道と言って仕舞えばそれまでだが、上の命令なのだから仕方あるまい。
「そんなに文句言うならもっと偉くなることね、蓮見巡査」
千里は少し皮肉を込めてそういうと、蓮見は少し悔しそうに「そーですね、我妻警部」と答えた。
「わかればよろしい」
蓮見の反応が少し可愛く見えた千里は口元を抑える。まさかこんな風に蓮見先輩を揶揄う日がやってくるとは思いもしなかった。
「そーいやさ」
「何?」
「我妻はなんで刑事なんかになったの?」
突然投げかけられた質問に千里は顔をあげる。
「何でっていわれても…」
千里は一瞬、悩んだ素振りを見せると再びパソコンへと視線を戻した。
「何となくよ…」
「ふーん」
蓮見はさして興味無さそうに呟くと、双眼鏡を待って千里の側へと腰を下ろした。
「な、何?」
突然、距離を詰められた事に千里の体が硬直する。
「まさか、好きなやつを追っかけてとか?」
「は?」
何を言い出すかと思えば、どこか真剣な表情で拍子抜けな事を尋ねる蓮見に千里はポカンと口を開ける。
「んな、訳ないでしょ!変なこと言わないでよ」
「本当かよ」
「本当よ!」
何故そんな事を聞くのか。
「ふーん。ならいいけどよ…」
蓮見はそう呟くと、再び窓際へと戻っていった。一体、今の質問は何だったのか。
「そういう蓮見君はどうして刑事になったのよ」
千里は身体の緊張を解くと、今度は同じ質問を蓮見に投げかける。
「…彼女に振られたから」
「…」
意外な返答に千里は一瞬、動揺する。
「そう…」
蓮見に彼女がいた事くらいわかっていたつもりだが、本人から事実を聞かされると、それはそれで心の中が少しざわついてしまう。
「んだよ…、意外だったか?」
蓮見はどこかバツが悪そうに頭を掻く。
「別に…?、貴方がよくモテる事くらい何となくわかってるわ」
千里は出来るだけ心の内を悟られ無いように、平然を装う。
「…どうして、別れたの?」
「……」
「ご、ごめん。話したくないわよね」
千里は慌てて、顔を上げると蓮見に謝罪する。
「……俺がサッカー辞めたから」
「え?」
意外な言葉に千里は純粋に驚く。
「プロサッカー選手と結婚したかったんだとよ…」
「そ、そんな理由で?」
あまりにも、幼稚な理由に千里は眉根を下げる。いくらなんでもそんな理由で別れたりするだろうか?
「そんな理由だったんだよ…、笑いたきゃ笑え」
蓮見は不貞腐れた様に、両腕を首の後ろへとやるとその場に寝転んだ。
「結局、今はどこぞのJリーガーと交際中だしな。まぁ俺が足怪我してサッカー出来ねぇってなった時から、何となく様子が変だったから…、そんな気はしてたけど」
どうやら、足の怪我でプロ入り出来なかった蓮見を捨てて現役のサッカー選手と交際を始めてしまったらしい。
「んで、暫く遊び回ってた所を親父に見つかって…、首根っこ掴まれて警察の試験受けさせられたってわけ」
「な、なるほど…」
どうりで出会った時の印象がまるで違う訳だ。
「で、でも良かったね」
「あ?何がだよ…」
相変わらず不機嫌そうな様子の蓮見に千里は微笑む。
「そんな、女別れて正解よ」
「…」
「だって要するに、サッカーが上手い人気者の蓮見君が好きだったわけじゃない?」
そう。きっと蓮見自身のことを好いていた訳では無いのだろう。
「まぁ、そうだろうな…」
蓮見は悔しそうにそっぽを向く。
「そんな子はこっちから願い下げよ。きっとこの先どんな蓮見君でも愛してくれる人がきっと現れるわ」
千里はそういうと、再びパソコンへと視線を戻した。
蓮見はというと、相変わらずそっぽを向いたまま寝転んだままである。
「お前は…」
「ん?」
「お前はやっぱりいい女だな、我妻」
蓮見の言葉に千里は打っていたキーボードの手が止まる。
「そ、そんな事言っても何も出ないわよ…」
声が震える。まさか、あの蓮見にそんな事を言われる日が来るとは思いもしなかった。
「別に何もいらねぇよ…」
蓮見はそういうと、何か決心した様にその場に勢いよく立ち上がった。
「どうしたの?」
「コンビニ」
「今張り込み中なんだけど…」
先程のトキメキを返せと言った表情で千里は蓮見を睨みつける。
「わぁってるよ、プリン買ってきてやるから」
「あんたねぇ…」
こちらの気もしらぬ蓮見に、千里はため息を吐く。
「んな、怒んなって嫁の貰い手なくなんぞー」
ポンポンと頭を叩きながらナチュラルに煽ってくる蓮見に千里は青筋を立てる。
「あんたね!いい加減に…」
文句の一つでも言ってやろうと、蓮見の方へと思い切り振り向く。
しかし、後に続く言葉は蓮見の唇によって遮られた。
「……」
(あれ、何で?)
突然、キスされている状況に千里の思考が停止する。
蓮見はというと千里の顎を掴み、後で言い訳が出来ないくらい執着に千里の唇を啄んでいる。
「んッ…は…」
何とか抵抗しようと蓮見の身体を押し返すが、大の男に叶うはずもなく、千里は蓮見にされるがまま唇を開いて蓮見の舌を受け入れる。
「ンッ…」
千里の息が上がる。口からは変な声が漏れ、思うように身体に力が入らない。
(あれ…。私、何してるんだっけ…)
意識が朦朧とする。腰は当に砕け、身体中が蓮見を求めて疼き出す。
ずっと憧れていた先輩、
みんなの人気者、
自分とは住んでいる世界が違う人、
そんな人に今キスをされている。きっと限られた人しか知らない彼の唇。
千里の目尻に涙が浮かぶ。このままでは流れるとこまで流されてしまう。
離れなくては…
そう感じた千里は蓮見の背中を思い切り叩く。こんなシチュエーションで自分の全てを捧げるのはごめんだ。
千里の訴えにようやく唇を離した蓮見はどこか余裕のない表情で千里を見つめる。
「…何?」
「…な、何じゃなくて…」
離れた二人の唇からは名残惜しく銀色の糸が引く。千里は今の状況に混乱する。
「嫌だった?」
蓮見の問いかけに千里は涙を溜めて唇を抑える。
「いや…、びっくりして…、その…」
「……」
状況が飲み込めない千里は、ぼんやりと蓮見の顔を見つめる。
「嫌じゃねぇんだ」
意地悪そうに目を細める蓮見の姿に千里の胸が脈打つ。
「いや、えっと…」
反論しようにも上手く言葉が出てこない。
「…まぁ、安心しろよ。もし嫁の貰い手がなかったら俺がもらってやるからよ」
爆弾発言とも取れる台詞を言い残すと、蓮見は勝ち誇った表情で502号室を出て行った。
「駄目だ…、超暇…」
どうやら全く動きのない状況に飽き飽きしているらしい。
「こら、ちゃんと監視しといてよね。取引現場押さえないといけないんだから…」
千里は自身のノートパソコンから目を離す事なく答える。
「なんかもっと他に方法あんだろ…効率悪すぎ…」
蓮見は頭を掻きながら、文句を垂れる。
確かに地道と言って仕舞えばそれまでだが、上の命令なのだから仕方あるまい。
「そんなに文句言うならもっと偉くなることね、蓮見巡査」
千里は少し皮肉を込めてそういうと、蓮見は少し悔しそうに「そーですね、我妻警部」と答えた。
「わかればよろしい」
蓮見の反応が少し可愛く見えた千里は口元を抑える。まさかこんな風に蓮見先輩を揶揄う日がやってくるとは思いもしなかった。
「そーいやさ」
「何?」
「我妻はなんで刑事なんかになったの?」
突然投げかけられた質問に千里は顔をあげる。
「何でっていわれても…」
千里は一瞬、悩んだ素振りを見せると再びパソコンへと視線を戻した。
「何となくよ…」
「ふーん」
蓮見はさして興味無さそうに呟くと、双眼鏡を待って千里の側へと腰を下ろした。
「な、何?」
突然、距離を詰められた事に千里の体が硬直する。
「まさか、好きなやつを追っかけてとか?」
「は?」
何を言い出すかと思えば、どこか真剣な表情で拍子抜けな事を尋ねる蓮見に千里はポカンと口を開ける。
「んな、訳ないでしょ!変なこと言わないでよ」
「本当かよ」
「本当よ!」
何故そんな事を聞くのか。
「ふーん。ならいいけどよ…」
蓮見はそう呟くと、再び窓際へと戻っていった。一体、今の質問は何だったのか。
「そういう蓮見君はどうして刑事になったのよ」
千里は身体の緊張を解くと、今度は同じ質問を蓮見に投げかける。
「…彼女に振られたから」
「…」
意外な返答に千里は一瞬、動揺する。
「そう…」
蓮見に彼女がいた事くらいわかっていたつもりだが、本人から事実を聞かされると、それはそれで心の中が少しざわついてしまう。
「んだよ…、意外だったか?」
蓮見はどこかバツが悪そうに頭を掻く。
「別に…?、貴方がよくモテる事くらい何となくわかってるわ」
千里は出来るだけ心の内を悟られ無いように、平然を装う。
「…どうして、別れたの?」
「……」
「ご、ごめん。話したくないわよね」
千里は慌てて、顔を上げると蓮見に謝罪する。
「……俺がサッカー辞めたから」
「え?」
意外な言葉に千里は純粋に驚く。
「プロサッカー選手と結婚したかったんだとよ…」
「そ、そんな理由で?」
あまりにも、幼稚な理由に千里は眉根を下げる。いくらなんでもそんな理由で別れたりするだろうか?
「そんな理由だったんだよ…、笑いたきゃ笑え」
蓮見は不貞腐れた様に、両腕を首の後ろへとやるとその場に寝転んだ。
「結局、今はどこぞのJリーガーと交際中だしな。まぁ俺が足怪我してサッカー出来ねぇってなった時から、何となく様子が変だったから…、そんな気はしてたけど」
どうやら、足の怪我でプロ入り出来なかった蓮見を捨てて現役のサッカー選手と交際を始めてしまったらしい。
「んで、暫く遊び回ってた所を親父に見つかって…、首根っこ掴まれて警察の試験受けさせられたってわけ」
「な、なるほど…」
どうりで出会った時の印象がまるで違う訳だ。
「で、でも良かったね」
「あ?何がだよ…」
相変わらず不機嫌そうな様子の蓮見に千里は微笑む。
「そんな、女別れて正解よ」
「…」
「だって要するに、サッカーが上手い人気者の蓮見君が好きだったわけじゃない?」
そう。きっと蓮見自身のことを好いていた訳では無いのだろう。
「まぁ、そうだろうな…」
蓮見は悔しそうにそっぽを向く。
「そんな子はこっちから願い下げよ。きっとこの先どんな蓮見君でも愛してくれる人がきっと現れるわ」
千里はそういうと、再びパソコンへと視線を戻した。
蓮見はというと、相変わらずそっぽを向いたまま寝転んだままである。
「お前は…」
「ん?」
「お前はやっぱりいい女だな、我妻」
蓮見の言葉に千里は打っていたキーボードの手が止まる。
「そ、そんな事言っても何も出ないわよ…」
声が震える。まさか、あの蓮見にそんな事を言われる日が来るとは思いもしなかった。
「別に何もいらねぇよ…」
蓮見はそういうと、何か決心した様にその場に勢いよく立ち上がった。
「どうしたの?」
「コンビニ」
「今張り込み中なんだけど…」
先程のトキメキを返せと言った表情で千里は蓮見を睨みつける。
「わぁってるよ、プリン買ってきてやるから」
「あんたねぇ…」
こちらの気もしらぬ蓮見に、千里はため息を吐く。
「んな、怒んなって嫁の貰い手なくなんぞー」
ポンポンと頭を叩きながらナチュラルに煽ってくる蓮見に千里は青筋を立てる。
「あんたね!いい加減に…」
文句の一つでも言ってやろうと、蓮見の方へと思い切り振り向く。
しかし、後に続く言葉は蓮見の唇によって遮られた。
「……」
(あれ、何で?)
突然、キスされている状況に千里の思考が停止する。
蓮見はというと千里の顎を掴み、後で言い訳が出来ないくらい執着に千里の唇を啄んでいる。
「んッ…は…」
何とか抵抗しようと蓮見の身体を押し返すが、大の男に叶うはずもなく、千里は蓮見にされるがまま唇を開いて蓮見の舌を受け入れる。
「ンッ…」
千里の息が上がる。口からは変な声が漏れ、思うように身体に力が入らない。
(あれ…。私、何してるんだっけ…)
意識が朦朧とする。腰は当に砕け、身体中が蓮見を求めて疼き出す。
ずっと憧れていた先輩、
みんなの人気者、
自分とは住んでいる世界が違う人、
そんな人に今キスをされている。きっと限られた人しか知らない彼の唇。
千里の目尻に涙が浮かぶ。このままでは流れるとこまで流されてしまう。
離れなくては…
そう感じた千里は蓮見の背中を思い切り叩く。こんなシチュエーションで自分の全てを捧げるのはごめんだ。
千里の訴えにようやく唇を離した蓮見はどこか余裕のない表情で千里を見つめる。
「…何?」
「…な、何じゃなくて…」
離れた二人の唇からは名残惜しく銀色の糸が引く。千里は今の状況に混乱する。
「嫌だった?」
蓮見の問いかけに千里は涙を溜めて唇を抑える。
「いや…、びっくりして…、その…」
「……」
状況が飲み込めない千里は、ぼんやりと蓮見の顔を見つめる。
「嫌じゃねぇんだ」
意地悪そうに目を細める蓮見の姿に千里の胸が脈打つ。
「いや、えっと…」
反論しようにも上手く言葉が出てこない。
「…まぁ、安心しろよ。もし嫁の貰い手がなかったら俺がもらってやるからよ」
爆弾発言とも取れる台詞を言い残すと、蓮見は勝ち誇った表情で502号室を出て行った。