アンノウアブル!憧れだった先輩が部下になりました
第八章【紅葉の猛アタック】
その後、意外にもすんなりと張り込みが終了したのは紅葉の活躍によるものだった。なんでも聞き込みの最中に犯罪グループとの一人と鉢合わせをした紅葉は自ら対象を捕獲し、その後の捜査で芋蔓式にグループ全員の検挙に成功した。
結局、紅葉一人の手柄となってしまった今回の張り込みであるが、千里にとってはそれどころの騒ぎではなかった。
『…まぁ、安心しろよ。もし嫁の貰い手がなかったら俺がもらってやるからよ』
蓮見に言われた言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡る。
今思えば、あの時よく平然を装っていられたなと自分でも驚きを隠せない。
千里は大きくため息を吐くと、机に突っ伏す。
(ファーストキスだったのにな…)
意外な形で奪われてしまった事に戸惑いを隠せずにいると、突然問題の本人から声をかけられる。
「どーした?ぼっーとして」
まるで張り込み中に起きた出来事など知らないと言った様子で普段通り声をかけてくる蓮見に千里はため息を吐く。
「…別に、何でもないけど」
あの張り込み以来、何となく蓮見との距離感が近くなったことに千里は再びため息を吐く。きっと学生時代の自分であればもっと舞い上がって居たはずだが、何故かあまり素直に喜ぶことができないでいる。
(なんか、昔と全然イメージ違うのよね…)
なんというか、昔の蓮見であれば、あんな不躾にキスを奪ったりはしないはずである。もっとこう、爽やかに紳士に対応してくれていたに違いない。
しかし、そこでふと昔の同級生である都子の言葉が思い出される。
『凄い一途そう!』
「…」
今自分が感じているこのモヤモヤとした気持ちは結局の所蓮見律という男をアイドル化しているためかもしれない。
そう考えると、そこら辺で黄色い声をあげている女子社員と変わりがない自分に嫌悪感が湧き出てくる。
(やめよ…、きっと遊ばれてるんだわ…)
気にするだけ、自分が傷つくだけだと結論に至った千里は財布を片手に席を立ち上がる。
「どっか行くの?」
「えぇ、コンビニに」
蓮見の問いかけに淡々と答えると、何を思ったのか蓮見自身もその場に立ち上がった。
「な、何?」
「いや、俺も行こうと思って」
そう言って、人懐っこい笑みをを見せる蓮見に再び千里の心が騒つく。
「欲しいものがあるなら買ってきてあげるわよ…」
出来るだけ蓮見との行動を避けるため、千里は欲しいものを尋ねる。
「じゃあ、エロ本買ってきて」
「はぁ?!」
まさかの、品に千里は眉を顰める。今時コンビニでエロ本なんて買うのだろうか。
「冗談だって、んな怒んなよ」
しかし、蓮見は可笑しそうにクスクスと笑っている。
(完全に、遊ばれてる…)
心の中でそう思った千里は、不機嫌そうにそっぽを向くとエレベーターホールに向かって歩き出す。
この様子だと、きっと張り込み中のキスも冗談だったと笑われるに違いない。
「おい、待てよ…」
流石に不味かったと感じ取った蓮見は、慌てて千里の後を追う。しかし、珍しく本気で怒った千里は無視を決め込んだのか、一言も喋ろうとしない。
(いくら、初恋の相手だからって何でも喜ぶと思うなよ)
「あー、我妻?ごめん。本当に悪かった…」
蓮見はというと、珍しく本気で慌てているのか困った様子で千里に許しをこう。
エレベーターを降りて、外に位置するコンビニへと辿り着くと、千里は買い物かごにエナドリを大量投入していく。
「おい、流石に入れすぎだろ…」
大量投入されたエナドリを見て蓮見が苦笑する。
「別に…、関係ないじゃない」
ただでさえ、睡眠不足が祟っているのだ。これくらいの贅沢は許してほしい。
「お前に倒れられたら困るんだよ…。おら、スイーツ買ってやるから戻してこい」
まるで、妹に餌付けする兄のような物言いに千里はますます顔を顰める。
「なんで、貴方に命令されなきゃいけないのよ。貴方の教育係は私よ?命令なら私がするわ」
千里はそういうと、蓮見の横を通り過ぎてレジへと並ぶ。
「おい、マジでなんでそんな怒ってんだよ…」
「自分の胸に聞いてみなさい」
「まさか、この前の事怒ってんの?」
「…」
的を得た質問に千里は黙り込む。何を今更慌てているのか。
沈黙を貫く千里に、蓮見は何か諦めた様子でため息を吐くと、「そーかよ」と呟いてどこかへと姿を消してしまった。
(あれ、行っちゃった…)
内心、「悪かった」と謝罪の言葉を貰えるのでは無いだろうかと淡い期待を抱いていた千里は少し残念そうに、遠くなる蓮見の背中を見つめる。
(やり過ぎたかな…)
いくらなんでも無視は大人気なかっただろうか…。
帰りのエレベーターで、自己嫌悪に陥っていると、ふと誰かに肩を叩かれる。
「お疲れっス」
「…紅葉」
振り向いた先にいたのは疲れきった表情をした紅葉であった。どうやら出先から戻ってきたようである。
「お、お疲れ様」
千里は慌てて労いの言葉をかけると、袋に入った大量のエナドリを一本紅葉へと手渡す。
「いいんすか?」
どこか驚いた表情でエナドリを受け取った紅葉は直ぐに缶のタブを捻る。
「珍しく疲れてるわね」
「出先で変な女に絡まれて…」
どうやら疲労の原因は仕事ではなく、紅葉に目をつけた女が原因であるらしい。
「相変わらずモテますねー」
姉のような心持ちでそう呟くと、「なんも嬉しくねー」とネクタイを緩めながら答えた。
「先輩こそ、すげぇ顔してましたけど、なんかあったんですか?」
紅葉の言葉に先ほどの蓮見の件を思い出す。
「いや、別に…」
部下にキスされて困ってます。なんて口が裂けても言えるわけが無い。
「そ、それより、紅葉!私の報告書作成手伝って貰えないかしら?ほら、この前の聞き込み紅葉がやってるから具体的に書いて欲しくって…」
「別に、いいっスけど…」
どこか、慌てて話を変えようとする千里の様子に紅葉は首を傾げる。どうもこの前の張り込みから様子がおかしい。
「先輩」
「ん?」
「いや、本当に何かあったら相談して下さい…、俺、先輩の相談なら全然大歓迎なんで…」
紅葉はそういうと、千里からエナドリが大量に入った袋を取り上げる。
「あ、ありがとう…」
千里は髪を耳にかけると素直に紅葉の好意を受け取る。
「もし、本当にどうしたらいいか分からなくなったら相談するから…」
だから、今まだそっとしておいて欲しいな。
結局、紅葉一人の手柄となってしまった今回の張り込みであるが、千里にとってはそれどころの騒ぎではなかった。
『…まぁ、安心しろよ。もし嫁の貰い手がなかったら俺がもらってやるからよ』
蓮見に言われた言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡る。
今思えば、あの時よく平然を装っていられたなと自分でも驚きを隠せない。
千里は大きくため息を吐くと、机に突っ伏す。
(ファーストキスだったのにな…)
意外な形で奪われてしまった事に戸惑いを隠せずにいると、突然問題の本人から声をかけられる。
「どーした?ぼっーとして」
まるで張り込み中に起きた出来事など知らないと言った様子で普段通り声をかけてくる蓮見に千里はため息を吐く。
「…別に、何でもないけど」
あの張り込み以来、何となく蓮見との距離感が近くなったことに千里は再びため息を吐く。きっと学生時代の自分であればもっと舞い上がって居たはずだが、何故かあまり素直に喜ぶことができないでいる。
(なんか、昔と全然イメージ違うのよね…)
なんというか、昔の蓮見であれば、あんな不躾にキスを奪ったりはしないはずである。もっとこう、爽やかに紳士に対応してくれていたに違いない。
しかし、そこでふと昔の同級生である都子の言葉が思い出される。
『凄い一途そう!』
「…」
今自分が感じているこのモヤモヤとした気持ちは結局の所蓮見律という男をアイドル化しているためかもしれない。
そう考えると、そこら辺で黄色い声をあげている女子社員と変わりがない自分に嫌悪感が湧き出てくる。
(やめよ…、きっと遊ばれてるんだわ…)
気にするだけ、自分が傷つくだけだと結論に至った千里は財布を片手に席を立ち上がる。
「どっか行くの?」
「えぇ、コンビニに」
蓮見の問いかけに淡々と答えると、何を思ったのか蓮見自身もその場に立ち上がった。
「な、何?」
「いや、俺も行こうと思って」
そう言って、人懐っこい笑みをを見せる蓮見に再び千里の心が騒つく。
「欲しいものがあるなら買ってきてあげるわよ…」
出来るだけ蓮見との行動を避けるため、千里は欲しいものを尋ねる。
「じゃあ、エロ本買ってきて」
「はぁ?!」
まさかの、品に千里は眉を顰める。今時コンビニでエロ本なんて買うのだろうか。
「冗談だって、んな怒んなよ」
しかし、蓮見は可笑しそうにクスクスと笑っている。
(完全に、遊ばれてる…)
心の中でそう思った千里は、不機嫌そうにそっぽを向くとエレベーターホールに向かって歩き出す。
この様子だと、きっと張り込み中のキスも冗談だったと笑われるに違いない。
「おい、待てよ…」
流石に不味かったと感じ取った蓮見は、慌てて千里の後を追う。しかし、珍しく本気で怒った千里は無視を決め込んだのか、一言も喋ろうとしない。
(いくら、初恋の相手だからって何でも喜ぶと思うなよ)
「あー、我妻?ごめん。本当に悪かった…」
蓮見はというと、珍しく本気で慌てているのか困った様子で千里に許しをこう。
エレベーターを降りて、外に位置するコンビニへと辿り着くと、千里は買い物かごにエナドリを大量投入していく。
「おい、流石に入れすぎだろ…」
大量投入されたエナドリを見て蓮見が苦笑する。
「別に…、関係ないじゃない」
ただでさえ、睡眠不足が祟っているのだ。これくらいの贅沢は許してほしい。
「お前に倒れられたら困るんだよ…。おら、スイーツ買ってやるから戻してこい」
まるで、妹に餌付けする兄のような物言いに千里はますます顔を顰める。
「なんで、貴方に命令されなきゃいけないのよ。貴方の教育係は私よ?命令なら私がするわ」
千里はそういうと、蓮見の横を通り過ぎてレジへと並ぶ。
「おい、マジでなんでそんな怒ってんだよ…」
「自分の胸に聞いてみなさい」
「まさか、この前の事怒ってんの?」
「…」
的を得た質問に千里は黙り込む。何を今更慌てているのか。
沈黙を貫く千里に、蓮見は何か諦めた様子でため息を吐くと、「そーかよ」と呟いてどこかへと姿を消してしまった。
(あれ、行っちゃった…)
内心、「悪かった」と謝罪の言葉を貰えるのでは無いだろうかと淡い期待を抱いていた千里は少し残念そうに、遠くなる蓮見の背中を見つめる。
(やり過ぎたかな…)
いくらなんでも無視は大人気なかっただろうか…。
帰りのエレベーターで、自己嫌悪に陥っていると、ふと誰かに肩を叩かれる。
「お疲れっス」
「…紅葉」
振り向いた先にいたのは疲れきった表情をした紅葉であった。どうやら出先から戻ってきたようである。
「お、お疲れ様」
千里は慌てて労いの言葉をかけると、袋に入った大量のエナドリを一本紅葉へと手渡す。
「いいんすか?」
どこか驚いた表情でエナドリを受け取った紅葉は直ぐに缶のタブを捻る。
「珍しく疲れてるわね」
「出先で変な女に絡まれて…」
どうやら疲労の原因は仕事ではなく、紅葉に目をつけた女が原因であるらしい。
「相変わらずモテますねー」
姉のような心持ちでそう呟くと、「なんも嬉しくねー」とネクタイを緩めながら答えた。
「先輩こそ、すげぇ顔してましたけど、なんかあったんですか?」
紅葉の言葉に先ほどの蓮見の件を思い出す。
「いや、別に…」
部下にキスされて困ってます。なんて口が裂けても言えるわけが無い。
「そ、それより、紅葉!私の報告書作成手伝って貰えないかしら?ほら、この前の聞き込み紅葉がやってるから具体的に書いて欲しくって…」
「別に、いいっスけど…」
どこか、慌てて話を変えようとする千里の様子に紅葉は首を傾げる。どうもこの前の張り込みから様子がおかしい。
「先輩」
「ん?」
「いや、本当に何かあったら相談して下さい…、俺、先輩の相談なら全然大歓迎なんで…」
紅葉はそういうと、千里からエナドリが大量に入った袋を取り上げる。
「あ、ありがとう…」
千里は髪を耳にかけると素直に紅葉の好意を受け取る。
「もし、本当にどうしたらいいか分からなくなったら相談するから…」
だから、今まだそっとしておいて欲しいな。