アンノウアブル!憧れだった先輩が部下になりました
 佐藤が蓮見の元を去ってから数時間後。ようやくひと段落着いた事務処理に千里は思い切り伸びをする。

 気づけば外は暗く、今日はやけに事件の件数が少なかったなと辺りを見渡す。

 蓮見はというと、だれかに呼ばれたのか席を外している。

 (それか、また佐藤さんのとこでも行ったのかしら…)

 千里は先ほどの二人の様子を思い出すとブンブンと頭を横に振る。

 どうにも先日の張り込みの一件から蓮見の事が気になってしまって仕方がない。

 (やっぱり、ちゃんと理由を聞くべきかしら…)

 千里は先程まで酷使していた目元を抑えると、椅子の背もたれへと背を預ける。

 (でも、はぐらかされるのは嫌だし…)

 この前のように、冗談だと笑われてしまっては、いよいよ仕事に来ることさえキツくなってしまう。

 うーん、と一人険しい表情で天井を見上げる。いくつもの蛍光灯が眩しく光る中、大きな人影が千里の目に映る。

 「…何?」

 「何じゃねぇ…」

 紅葉は千里の顔を覗き込みながら、眉間に眉を寄せている。

 何か仕事の相談かと思い身体を起こすと、紅葉が隣の空き席へと腰掛けた。

 「どうしたのよ…」

 どこか不機嫌そうな様子の紅葉に、千里は首を傾げる。

 「先輩、今日暇?」

 「え…?暇なわけないでしょ」

 千里は少しムッとした表情で答える。

 「じゃあ、俺と飲みに行きましょ」

 「いや、だから暇じゃないって…」

 「店は後で連絡するんで」

 そう言って紅葉は席を立つ。

 「ちょ、ちょっと、あんた話し聞いてた?」

 千里は今日何度目かわからないため息を吐く。しかし、紅葉は聞く耳持たずといった様子で部屋から出ていってしまった。

 (もう、なんなのよ…、どいつも、こいつも)
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