アンノウアブル!憧れだった先輩が部下になりました
 急いで服を着替え、現場に辿り着くとそこには不愉快そうな表情をした内藤が千里のことを出迎えた。

 「遅いぞ、何をしていた?」

 「す、すみません。寝てました…」

 内藤のお叱りに千里は慌てて頭を下げる。

 「まぁ、まぁ、内藤さん。流石に今回の召集は突然の事だからしょうがないですよ」

 「蓮見くん…」

 蓮見が珍しくフォローを入れる。

 「まぁ、いい…。蓮見、被疑者の説明をしてやれ」

 内藤の言葉に蓮見は渋々口を開く。

 現場はとある私立高校の一室。

 「被害者の名前は浅見 賢治、年齢十八歳。この学校の剣道部員で、剣道部のエース。今朝方、朝練で練習場に訪れた生徒が部屋の中央で倒れている浅見さんを発見。救急車を呼んだけどその後病院での死亡が確認された。死因は窒息死、事故の線は無し」

 蓮見の説明に千里はメモを取る。

 「まだお若いのに…」

 千里は心の中で被害者の男性に手を合わせると、周囲の状況を確認する。

 「争った痕跡があるわね…」

 何やら靴を思い切り擦ったような後が確認できる。

 「聞き込みは?」

 「一応、剣道部の部員全員に聞いてみたけど、特に恨みを持ってる奴はいなかったな…」

 千里と話すのが気まずいのか、蓮見はそっぽを向いて答える。

 「そう…」

 しかし、千里はそんな事お構いなしといった様子で、被害者が倒れていた場所を事細かく確認する。

 「蓮見くん、ここには何が落ちてたの?」
 
 テープが囲われた場所を見て千里は尋ねる。 

 「確かコンタクトレンズだったな…、でも、部員でコンタクトしてるやつはどこにもいなかったぜ?」

 蓮見はペンで頭を掻く、どこか疲れた様子の彼に千里は小さな疑問を抱く。

 「…そう」

 「まぁ、マネージャーと顧問にはまだ聞き込み出来てねぇけどな…」

 蓮見はそういうと、目頭を抑える。

 「…蓮見君」

 「何?」

 千里は蓮見に近づくと顔を覗き込む。

 「あなた、なんか疲れてない?」

 以前の蓮見ならあれよあれよという間に現場を引っかきまわしていた印象であるが、今日の蓮見にはその勢いがない。

 「…んだよ、俺が疲れてたら変か?」

 「いや…、変じゃないけど」

 蓮見はそういうと、そっぽを向いてどこかへと歩き出す。

 「ちょっと、どこいくのよ!」

 「便所だ。便所。お前も一緒に来るか?」

 「い、行く訳ないでしょ!」

 意地悪そうに振り向く蓮見に反論すると、千里は改めて事件の捜査へと集中する。

 (駄目だ。今は仕事中、今は仕事中)

 自分にそう言い聞せると、顧問とマネージャーの居場所を突き止めるべく、職員室へと向かうとことにした。
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