アンノウアブル!憧れだった先輩が部下になりました
カラン、と缶が自動販売機から吐き出される音に高校時代の自分をふと思い出した蓮見は、何とも言えない気持ちで缶コーヒーのプルタブを捻る。
プシュという気前のいい音に、どこか懐かしさを感じると共に、時の流れは本当に早いものだと実感させられる。
グラウンドが一望できるベンチに腰掛けると、蓮見は小さくため息を吐く。
先日から千里との距離感がどうも掴めずにいる。
(まさか、受け入れられるなんて思わねぇよな…)
先日、衝動的に千里に手を出してしまった自分に苦笑する。想像では引っ叩かれて怒られると思っていたが、意外にも頬を染めて目を瞑る千里の姿に歯止めが効かなくなってしまった。
蓮見は再びコーヒーに口をつける。ほろ苦い味が口の中一杯に広がり、鼻腔からは重厚なコーヒー豆香りが突き抜ける。
外ではまだ朝早だというのに、将来に夢を馳せた少年達が楽しそうにサッカーボールを蹴って部活に励んでいる。
(へぇ、中々上手いな…)
ぼんやりとそんな事を思う。
今思えば、自分もあんな風に無邪気にボールを蹴っていた頃が一番幸せだったのかもしれない。
「あ、刑事さん!」
唐突に通りすがりの女子生徒から指を刺された。
「すごーい、まじで刑事さんっているんだ!」
少しミーハーな女子生徒が興味津々な様子で蓮見へと近づいてくる。
「こんにちは」
「こんにちは!」
蓮見は特段驚いた様子を見せずに普段通り、人懐っこい笑みを浮かべて挨拶をする。
「ねぇねぇ、お兄さん本当に刑事さんなの?」
目を輝かせてそう尋ねる女生徒に蓮見は微笑む。
「ああ、そうだよ」
すると、女生徒は嬉しそうに蓮見の隣へと腰掛ける。
「すごーい!ねぇねぇ、警察手帳って本当に持ち歩いてるの?」
「あぁ、もちろん」
蓮見はそういうと、胸ポケットから黒の警察手帳を取り出して見せてやる。
「うわ!ほんもの!」
女生徒は興奮気味に「中身も見せて!」と懇願する。
「別に、写真入ってるだけだぞ…」
蓮見は仕方なく中を開いて見せてやる。
「蓮見さんっていうんだ!」
「そうだよ。ところで君の名前は?」
蓮見は隣でキャッキャッと騒ぐ女生徒に尋ねる。
「あ、申し遅れました!私三年B組の御手洗由梨《みたらい ゆり》です!」
由梨は髪の毛を整えると、まだ幼さの残る笑顔を蓮見に向ける。
「へー、御手洗さんって珍しい名前だね」
「はい!「おてあらいって」よく言われます!」
由梨の言葉に蓮見は声を出して笑う。
「それにしても朝早いね。部活かなんか?」
「はい!私剣道部のマネージャーなんです!でも稽古場にいったら凄いお巡りさんの数で…、なんかお忙しそうにしていたので引き返してきました!」
(この子か…)
今朝方話を聞けなかった相手に偶然巡り会えた蓮見は目を細める。
「ハハ、今はいかない方がいいよ。みんな朝早くの緊急召集で機嫌が悪いから。それより、何か飲む?お兄さんが奢ってやるよ」
蓮見の言葉に由梨は目を輝かす。
「で、ではオレンジジュースを!」
言われたとおり、オレンジジュースを買ってやると由梨は嬉しそうに頭を下げた。
「ありがとうございます!」
「いえいえ。それより、君は学校で起きた事件の事知ってるの?」
蓮見は由梨の隣に再び腰掛けると、事件の事について尋ねる。
「はい…、エースだった浅見君が殺されたって…」
由梨は少し顔を伏せて答える。
「その浅見君に恨みを買ってる人とか知らない?些細な情報でも歓迎なんだけど…」
蓮見はできるだけ遠慮気味に尋ねる。
「いえ…、浅見君に憧れていた子は沢山いますけど、恨んでいた子なんていないと思います」
由梨はオレンジジュースのプルタブを捻る。
「そっか、すげぇな今時の若い子は」
蓮見の言葉に由梨は小首をかしげる。
「蓮見さんは恨まれるような人だったんですか?」
由梨の言葉に蓮見は苦笑する。
「恨まれるも何も、昔は喧嘩すんのが当たり前だったからな…そういう意味ではめっちゃ恨まれてたと思うぜ?」
そう。自身が若い頃というのはもっと普通に殴り合いの喧嘩をしていたものだが、最近の子はそういうことをしないらしい。
別にそれを悪いとかは思わないが、故に不満が溜まりやすくSNSなどで罵倒することしか出来ない人もいるのだろう。
「君、SNSとかやってる?」
「は、はい!あ、フレンド申請ならできませんよ!私、リアルで仲良くなった子しかフレンドにならない決まりにしているんです!」
由梨はそういって、オレンジジュースを一口飲む。
「へー、偉いじゃん。懸命な判断だと思うぜ?でも生憎俺はSNSやってねぇんだ」
笑いながらそう話す蓮見に由梨は顔を赤くする。
「す、すみません…、早とちりました…。親からそう教わったもので…」
少し恥ずかしそうに前髪をいじる由梨に蓮見は優しく微笑む。
「いいよ、それが正しい。特に見知らぬ男は要注意だ。ちなみに、浅見君はどうだった?SNSとかやってた?」
蓮見の質問に由梨は少し考え込む。
「やってたと思います…、やたら浅見君のファンがフレンド申請送り付けていたみたいで…、そこだけ迷惑してたみたいです」
由梨の言葉に蓮見は首をかしげる。
「それは君の推測の話?」
「え?」
由梨は少し動揺した表情で蓮見を見つめる。
「だって、断定的な言い方してないだろ?今の君の話し方だと、まるで誰かから話を聞いたみたいに聞こえるぜ?」
「…」
蓮見の突っ込みに、由梨は押し黙る。
「御手洗さんさ、さっき、俺を見つけて迷わず刑事さんだって叫んだよな、なんで俺が刑事だと思ったの?新人の教師とか子供を迎えに来た親とかって可能性もあるじゃん。それなのにどうして俺が刑事だってわかったの?」
「それは…」
「誰かに聞いた?」
「そ、そうです!と、友達に!」
「へー、そうなんだ。なんて子?その子の部活は?何組なの?」
「…」
蓮見の質問に由梨は再び押し黙る。
「ねえ、御手洗さん。あんたもしかして浅見君を殺した犯人知ってるんじゃない?」
「?!」
蓮見の言葉に由梨は目を見開く。
「べ、別に…」
「御手洗さん」
「な、なんですか…?」
「俺さ、まだ刑事になりたての新人なんだけど…、親父が警視総監なんだ。だからってわけじゃないけど、結構人の嘘とか見抜くの得意でよ…」
「だ、だからなんですか…」
先ほどまでと少し印象の違う蓮見の様子に、由梨は怖くなる。
「嘘はやめとけ。下手すりゃ犯人蔵匿及び、証拠隠滅の罪に問われるからよ」
蓮見の言葉に由梨は小さく身震いした。
プシュという気前のいい音に、どこか懐かしさを感じると共に、時の流れは本当に早いものだと実感させられる。
グラウンドが一望できるベンチに腰掛けると、蓮見は小さくため息を吐く。
先日から千里との距離感がどうも掴めずにいる。
(まさか、受け入れられるなんて思わねぇよな…)
先日、衝動的に千里に手を出してしまった自分に苦笑する。想像では引っ叩かれて怒られると思っていたが、意外にも頬を染めて目を瞑る千里の姿に歯止めが効かなくなってしまった。
蓮見は再びコーヒーに口をつける。ほろ苦い味が口の中一杯に広がり、鼻腔からは重厚なコーヒー豆香りが突き抜ける。
外ではまだ朝早だというのに、将来に夢を馳せた少年達が楽しそうにサッカーボールを蹴って部活に励んでいる。
(へぇ、中々上手いな…)
ぼんやりとそんな事を思う。
今思えば、自分もあんな風に無邪気にボールを蹴っていた頃が一番幸せだったのかもしれない。
「あ、刑事さん!」
唐突に通りすがりの女子生徒から指を刺された。
「すごーい、まじで刑事さんっているんだ!」
少しミーハーな女子生徒が興味津々な様子で蓮見へと近づいてくる。
「こんにちは」
「こんにちは!」
蓮見は特段驚いた様子を見せずに普段通り、人懐っこい笑みを浮かべて挨拶をする。
「ねぇねぇ、お兄さん本当に刑事さんなの?」
目を輝かせてそう尋ねる女生徒に蓮見は微笑む。
「ああ、そうだよ」
すると、女生徒は嬉しそうに蓮見の隣へと腰掛ける。
「すごーい!ねぇねぇ、警察手帳って本当に持ち歩いてるの?」
「あぁ、もちろん」
蓮見はそういうと、胸ポケットから黒の警察手帳を取り出して見せてやる。
「うわ!ほんもの!」
女生徒は興奮気味に「中身も見せて!」と懇願する。
「別に、写真入ってるだけだぞ…」
蓮見は仕方なく中を開いて見せてやる。
「蓮見さんっていうんだ!」
「そうだよ。ところで君の名前は?」
蓮見は隣でキャッキャッと騒ぐ女生徒に尋ねる。
「あ、申し遅れました!私三年B組の御手洗由梨《みたらい ゆり》です!」
由梨は髪の毛を整えると、まだ幼さの残る笑顔を蓮見に向ける。
「へー、御手洗さんって珍しい名前だね」
「はい!「おてあらいって」よく言われます!」
由梨の言葉に蓮見は声を出して笑う。
「それにしても朝早いね。部活かなんか?」
「はい!私剣道部のマネージャーなんです!でも稽古場にいったら凄いお巡りさんの数で…、なんかお忙しそうにしていたので引き返してきました!」
(この子か…)
今朝方話を聞けなかった相手に偶然巡り会えた蓮見は目を細める。
「ハハ、今はいかない方がいいよ。みんな朝早くの緊急召集で機嫌が悪いから。それより、何か飲む?お兄さんが奢ってやるよ」
蓮見の言葉に由梨は目を輝かす。
「で、ではオレンジジュースを!」
言われたとおり、オレンジジュースを買ってやると由梨は嬉しそうに頭を下げた。
「ありがとうございます!」
「いえいえ。それより、君は学校で起きた事件の事知ってるの?」
蓮見は由梨の隣に再び腰掛けると、事件の事について尋ねる。
「はい…、エースだった浅見君が殺されたって…」
由梨は少し顔を伏せて答える。
「その浅見君に恨みを買ってる人とか知らない?些細な情報でも歓迎なんだけど…」
蓮見はできるだけ遠慮気味に尋ねる。
「いえ…、浅見君に憧れていた子は沢山いますけど、恨んでいた子なんていないと思います」
由梨はオレンジジュースのプルタブを捻る。
「そっか、すげぇな今時の若い子は」
蓮見の言葉に由梨は小首をかしげる。
「蓮見さんは恨まれるような人だったんですか?」
由梨の言葉に蓮見は苦笑する。
「恨まれるも何も、昔は喧嘩すんのが当たり前だったからな…そういう意味ではめっちゃ恨まれてたと思うぜ?」
そう。自身が若い頃というのはもっと普通に殴り合いの喧嘩をしていたものだが、最近の子はそういうことをしないらしい。
別にそれを悪いとかは思わないが、故に不満が溜まりやすくSNSなどで罵倒することしか出来ない人もいるのだろう。
「君、SNSとかやってる?」
「は、はい!あ、フレンド申請ならできませんよ!私、リアルで仲良くなった子しかフレンドにならない決まりにしているんです!」
由梨はそういって、オレンジジュースを一口飲む。
「へー、偉いじゃん。懸命な判断だと思うぜ?でも生憎俺はSNSやってねぇんだ」
笑いながらそう話す蓮見に由梨は顔を赤くする。
「す、すみません…、早とちりました…。親からそう教わったもので…」
少し恥ずかしそうに前髪をいじる由梨に蓮見は優しく微笑む。
「いいよ、それが正しい。特に見知らぬ男は要注意だ。ちなみに、浅見君はどうだった?SNSとかやってた?」
蓮見の質問に由梨は少し考え込む。
「やってたと思います…、やたら浅見君のファンがフレンド申請送り付けていたみたいで…、そこだけ迷惑してたみたいです」
由梨の言葉に蓮見は首をかしげる。
「それは君の推測の話?」
「え?」
由梨は少し動揺した表情で蓮見を見つめる。
「だって、断定的な言い方してないだろ?今の君の話し方だと、まるで誰かから話を聞いたみたいに聞こえるぜ?」
「…」
蓮見の突っ込みに、由梨は押し黙る。
「御手洗さんさ、さっき、俺を見つけて迷わず刑事さんだって叫んだよな、なんで俺が刑事だと思ったの?新人の教師とか子供を迎えに来た親とかって可能性もあるじゃん。それなのにどうして俺が刑事だってわかったの?」
「それは…」
「誰かに聞いた?」
「そ、そうです!と、友達に!」
「へー、そうなんだ。なんて子?その子の部活は?何組なの?」
「…」
蓮見の質問に由梨は再び押し黙る。
「ねえ、御手洗さん。あんたもしかして浅見君を殺した犯人知ってるんじゃない?」
「?!」
蓮見の言葉に由梨は目を見開く。
「べ、別に…」
「御手洗さん」
「な、なんですか…?」
「俺さ、まだ刑事になりたての新人なんだけど…、親父が警視総監なんだ。だからってわけじゃないけど、結構人の嘘とか見抜くの得意でよ…」
「だ、だからなんですか…」
先ほどまでと少し印象の違う蓮見の様子に、由梨は怖くなる。
「嘘はやめとけ。下手すりゃ犯人蔵匿及び、証拠隠滅の罪に問われるからよ」
蓮見の言葉に由梨は小さく身震いした。