アンノウアブル!憧れだった先輩が部下になりました
 「それで?貴方トイレに行ってたんじゃないの?」

 千里は少し呆れた様子で蓮見を睨みつける。

 「おう、そんで帰りにコーヒー飲んでたら偶然この子と出くわしてよ」

 蓮見はそういって隣に立つ御手洗の肩を叩く。

 由梨は蓮見に促されるまま、千里に自己紹介をする。

 「あら、貴方もしかしてマネージャーの?」

 千里の言葉に由梨は頷く。

 「よかった、ちょうど話を聞きたいと思ってて…」

 「御手洗さん!!」

 千里が由梨に話しかけたその時、突然背後から御手洗の名を呼ぶ教師が三人の傍に駆け寄ってきた。

 「…先生」

 由梨の言葉に蓮見は目を細める。

 「御手洗さん!、探したのよ。大丈夫だった?変な事聞かれてない?」

 先生と呼ばれた女は必要以上に由梨の事を心配する。

 「先生、その…」

 「松田あかり先生ですよね?」

 由梨が口を開きかけると同時に、蓮見が口をはさむ。

 「え、ええ…。そうですけど…」

 松田と呼ばれた女は、少し戸惑った様子で答える。

 「率直にお尋ねします。浅見君とはどういうご関係で?」

 「ちょっと!蓮見君!」

 唐突な質問に、千里は慌てて蓮見の前にでる。

 「貴方、不躾もいいところよ!私がこれから話を聞くから少し黙ってて」

 しかし、千里の言葉が届いていないのか蓮見は尚も言葉を続ける。

 「浅見君とはどういうご関係で?」

 「ふ、普通に教師と教え子の関係です…」

 松田は視線を逸らしながら答える。

 「ほう、その割にはSNSで繋がっていたそうじゃないですか」

 「…」

 一体どこからその情報を仕入れてきたのか、千里は少し驚いた様子で蓮見を見つめる。

 「裏アカウントで一日に何百通もやり取りしていたそうですね、それも頻繁に」

 「べ、別に、生徒とSNSで繋がることくらい最近はよくあることです…」

 松田は少し取り繕うように髪を耳へとかける。

 「ええ、別に普通の事だと思いますよ。でもそんなに毎日一体何のやり取りをしていたんですか?」

 「ぶ、部の事についてです…」

 「そうですか。では貴方のスマホを確認させてもらってもいいですね?」

 蓮見はそういうと松田へと近づく。

 「いや、それはちょっと…。ね、ねえ御手洗さん?」

 松田は苦し紛れに、御手洗の名を呼ぶが御手洗は困ったように視線を逸らす。

 「ああ、松田先生。残念ですが…、もう教え子を共犯にはできませんよ?彼女は先ほど素直に白状してくれましたから…」

 蓮見の言葉に松田は動揺した様子で御手洗を見つめる。

 「…御手洗さん、どういうこと?」

 しかし、その質問は再び蓮見によって遮られる。

 「だから言ってるでしょう。もう教え子は共犯にはできないって。それとも俺の口から言わせたいんですか、先生?」

 蓮見の顔が一段と意地の悪い物へと変化する。松田はそんな蓮見の様子に身震いすると一歩後ろへと後ずさる。

 「な、なんの事…?私はただ…」

 「いい加減にしろよ。まだしらを切るつもりか?お前が浅見を殺ったことはもうバレバレなんだよ」

 蓮見の声に、周囲にいた捜査官たちが一斉に静まり返る。

 「しょ、証拠は?証拠はあるのかしら?」

 しかし、松田は尚も言い逃れしようと反論する。

 「ええ、ありますよ。厳密にはまだ出てこないでしょうが、捜査が進めば浅見君の首を絞めた物が特定されるはずです」

 「あら、何よそれ。それって、ただの推測じゃない」

 松田は少し勝ち誇った様子でほほ笑む。

 「いいえ、推測ではありません。何なら今ここで浅見君の首を絞めた物をお教えしましょうか?」
 
 蓮見はまるですべてお見通しといった様子で、松田の背後へと回る。

 「な、何よ」

 「ちょっと、失礼…」

 すると、何を思ったのか、背後から松田のネックレスを起用に取り外した。

 「何するの?、返して!」

 慌てて蓮見からネックレスを取り返そうとするが、身長差もあり、取り返すことができない。

 「おや、貴方が仰ったんじゃありませんか?証拠はあるのかと…」

 蓮見の言葉に松田は青ざめる。

 「これ、鑑識に回してしまって構いませんよね?」

 「そ、それは…」

 口ごもる松田の姿に、千里は初めて彼女が犯人であることを理解し始める。

 「強制ではありませんが、拒めばそれ相応に疑われることを覚悟してくださいよ?」

 意地の悪い表情で松田を見据える蓮見の姿に、周囲にいた誰もが息を飲む。どうやら、この男。刑事としては優秀なようだ。

 「…」

 しばしの沈黙が流れる。

 「…先生」

 由梨が黙り込んだ松田に声をかける。

 「…先生、ごめんなさい。私、全部この人に話しちゃいました」

 「…御手洗さん、何を言ってるの?先生は」

 「先生のコンタクトレンズが落ちてたそうです…。これ以上、言い逃れはできません」

 「…」

 すると、観念したのか松田はその場に力なく座り込んだ。

 「松田さん?」

 千里が慌てて松田の元へと駆け寄る。

 「刑事さん。そのネックレス…、どうぞ、鑑識に回してください…」

 松田の言葉に千里は驚く。

 「おや?よろしいんですか?」

 蓮見の言葉に松田は静かに頷く。そして、

 「はい…。浅見君を手にかけてしまったのはこの私です…」

 と、力なく自供した。
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