ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
「ジャン……心臓爆発しちゃう……」


 チャコの心情などお構いなしに、ジャンはチャコの頭に軽くポンポンと触れると、チャコを抱きしめるような形でギターに手を伸ばしてきた。

 そのままスローテンポできらきら星を弾きはじめる。その曲が終わると間近からチャコを窺っているような視線を感じた。ジャンの顔はチャコのすぐ真横にあるから、恥ずかしくてそちらを向けない。ただ、チャコのほうを見ているのはわかった。


「もう本当に恥ずかしいんだってば……」


 破裂寸前の心臓を抱えて、これ以上は無理だと愚痴ってみるが、ジャンは退く気配がない。しかもチャコの動揺など気にせず、ジャンがチャコの右手に触れてくるものだから、チャコの鼓動はさらに跳ねあがった。もうこれ以上は勘弁してくれと思っていたら、右手をそっとギターの弦のところまで持っていかれた。そして、ジャンは手本を見せるように一度弦を弾いてみせた。


「……教えてくれてるの?」


 また頭にポンポンっと触れてきたから、きっと肯定しているのだろう。教えてくれるのは純粋に嬉しい。だが、この体勢で教える必要はないのではないかと思う。


「でも、この教え方、恥ずかしい……本当に心臓壊れちゃうよ?」


 ジャンはもう一度頭に触れてくる。体制を変える気はないらしい。


「もう、ジャンはときどきいじわる……こんなことしてたら、ドキドキして、もっと好きになっちゃうんだからね!」


 振動でジャンが身体を震わせているのがわかる。笑っているのだろう。自分ばかりドキドキさせられて面白くないが、何を言っても無駄だとわかったから、チャコは諦めて受け入れることにした。

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