ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
「ジャンはもっとすごかったんだよ。本当に。全然しゃべらなかったけど、ギターはめちゃくちゃおしゃべりだった」
「あはは、何その比喩。よっぽどギターばっかり弾いてたんだね」
「うん。いっつも弾いてた。そういえば、名前聞いたときもギター弾いて返事してきたんだよ。何回か聴いてたから覚えちゃった」


 名前を聞いたときのジャンのあの謎の行動はあの日だけではなくて、何度かされていたから、その音と仕草をチャコは覚えている。チャコはあのときのジャンを真似て、ギターを弾いてみた。ちゃんと指で丸を作るのも忘れない。チャコを指さしたあとの音も弾いてみた。


「まったく意味わからないんだけどね」
「ねぇ、チャコ。それ、今弾いたの何の音?」


 なぜか由香が食いついてきた。


「え? えっと、ミソラ?」
「ミソラ……もう一つは?」
「ラレラドだね。どうしたの?」
「いや、音に意味があるんじゃないかと思って。その音が名前を表してるんじゃないかなって」


 どういうことだとチャコが首を傾げていたら、恵は少し頷いて納得しているようだった。


「なーるほど。もしかして天使は美空って名字とか?」
「ううん。それは違うと思う。だって、ラレラドって名字はないでしょ。ちょっと待って」


 由香はそう言うとスマホで何かを調べはじめた。真剣な表情をしていたから、黙って見ていたが、すぐに顔を上げてチャコに質問を重ねてきた。


「チャコ。ラレラドって弾いたあと天使さん何かしてなかった?」
「え? えー、何もしてなかったと思うけど……あ、高い音でもう一回弾いてたかも」
「高い音……あ、そうか。あー、そういうことか。わかった。チャコわかったよ、天使さんの名前」
「「え!?」」


 チャコも恵も思わず驚きの声を上げていた。

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