ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
 チャコの心臓は早鐘を打っていた。

 チャコの歌はチャコ視点のものだが、こちらはその相手視点、つまりはジャン視点になっている。想像で書くことはできるかもしれないが、偶然にしてはできすぎている気がする。『丘』なんて単語を知らずにチョイスできるものなのだろうか。これは知っている人が書いたのではないだろうか。そして、知っているとしたら、それはただ一人しかいない。


 チャコはそれを確認すべく、掠れそうになる声をどうにか絞りだして、その問いを口にした。


「……あの、これ投稿したのは誰ですか?」
「投稿者名は『ジャン』になってるわね」
「っ……ジャン」


 間違いない。この動画を上げたのはジャンだ。ここまでの偶然が起こるはずもない。


 きっとこれはチャコへのメッセージだ。ジャンはチャコの歌に気づいて、それに答えてくれたのだろう。

 その歌声は航平に見せられた動画のときとは随分違っていたが、どことなく似た響きがあった。あのときの力強い歌声もよかったが、今聴いたそっと寄り添うような優しい歌声はジャンのギターの音色を連想させる。そのせいかジャンのことが強烈に思いだされて、チャコは思わず涙をこぼしていた。


「え? ちょっとどうしたの?」


 涙を流すチャコに透子が心配の声を投げかけた。さすがにこんなところで泣いてはいけないとチャコは慌てて涙を拭った。


「すみませんっ……大丈夫です」
「そう? で、どう? あなたの声とすごく合っていると思うの」
「はい。この歌声、とても好きです。彼と組みたいです」
「そう! じゃあ、すぐにコンタクト取ってみるから。また連絡するわね」

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