ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~

5. 離れたくない

 『Joy』を出たあと、二人はあともう一つ行きたかった場所へやってきた。


「ここはお前との想い出がいっぱいだな。お前が隣にいないと落ち着かない」
「私も。一人でここに来るのは淋しかった……」


 二人が訪れたのはあの河川敷だった。


「チャコ……これからはずっとそばにいるから。絶対に淋しい想いはさせない」
「うん。嬉しい」
「ははっ。チャコは本当素直だな。かわいい」


 今までまったくしゃべらなかった人からそんなことを言われては胸の高まりがおさまらない。どう反応していいかわからなくて俯いていたら、「チャコ」と優しく呼びかけられた。顔を上げてジャンを見ると唇をトントンと叩かれる。久しいその感触に、チャコはひとしずくだけぽろりと涙をこぼした。


「歌って?」
「いいよ」


 『君ともう一度』をギターを弾きながら歌う。するとジャンもチャコに合わせて歌いはじめた。二人で声を合わせるのは初めてのはずなのに、それは当たり前のように馴染んでいた。二人の声が寄り添い、溶けていく。きっと自分はジャンと歌うために存在していたのだと、そう感じられた。

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