ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
「そのことですが、千夜子さんと私はデュオを組むことになります」
「は?」


 父はまた驚きの表情を浮かべている。


「今、プロデューサーからそういう声がかかっています。千夜子さんはすでに承諾していますし、私も断りません。二人で同じ道を歩むことになります」
「本当なのか?」
「うん。この間言われた。元々私はジャンと一緒に夢を叶えるつもりだったから断ってない。四年前に一緒にやろうって私からジャンにお願いしてた」


 チャコはジャンの言葉を補うように、自分が望んだことなのだと話した。ちゃんとチャコの意志なのだと伝えておきたかったのだ。


「……お前はいつも唐突すぎて訳がわからない。だが、まあ、その話はいったんわかったことにしておく。でも、結婚はゆっくり考えなさい」
「できません。彼女を堂々と守れる立場になりたいんです。一分一秒だって待てません。これ四年前に書いたものです。ずっと想いは変わっていません」
「はあ?」


 ジャンが両親に見せたのは婚姻届だった。夫側の欄だけ書き込まれている。

 なんとジャンは再開の誓いを立てるためにこれを書いていたらしい。しかも、ご両親にもその話を伝えており、証人の欄の一つにはジャンの父親の名前が記載されている。

 チャコも昨日これを見せられたときには目を疑った。けれど、そのあまりにも強い愛を見せつけられて、チャコはすっかりジャンにのぼせ上ってしまった。自分も同じ想いを返したくなったのだ。


「こっちは昨日書きました。証人をあと一人探せば提出できます」


 昨日、江川家を訪れたときに新しい婚姻届を記入していた。チャコも妻の欄に自分の名前を記入している。そして、四年前のものと同じく証人の欄にはジャンの父親の名前が記されている。


 昨日、目の当たりにしてわかったが、江川家というのはこういうことに対するハードルが随分と低いようだった。愛に生きているとでも言えばいいのだろうか。互いに好きなら結婚するのが当たり前だろと言わんばかりの様子だったのだ。
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