ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
「あはは! 一緒にやると楽しいね!」


 ジャンもにこにことしている。楽しんでくれたようだ。その様子にチャコも満足して微笑みを向ければ、ジャンがまたニッと笑い、今度は複雑なメロディーを奏ではじめた。


「!? すごっ……」


 そのメロディーにはきらきら星が含まれている。だが、それはチャコが知っている単調なものではなくて、やたら速くて軽やかなものだったり、もの悲しかったり、跳ねていたり、しっとりしていたりといろいろな形に変化していった。


 演奏が終われば、チャコは人目も憚らずに大きな拍手を送っていた。


「すごいっ! すごいすごいすごい! 何それ! 私の知ってるきらきら星じゃない! なんかキラキラしてたし、おしゃれになったり、ちょっと切なかったり、かわいかった。ジャン、すごいね!」


 興奮するチャコに対し、ジャンはずっと微笑みを浮かべて、チャコのことを見つめる。そして、チャコが落ち着けば、ジャンはもう一度唇を叩いてきた。


「ねぇ、その合図違うのじゃダメなの? 恥ずかしいんだけど……」


 ジャンはにこにことしたまま、また唇を叩く。


「もうわかったよ。歌う! 歌うから! そのあと、またさっきのやつ聴かせてね」


 チャコが歌ってやれば、ジャンはちゃんと先ほどの変化にとんだきらきら星を演奏してくれた。とても楽しくて時間はあっという間に過ぎていく。



「日が落ちちゃったねー。今日はいつもより早かったな」


 ジャンはもう帰り支度をしている。チャコも立ち上がって制服の汚れを払うと鞄を肩にかけた。


「じゃあ、またね。バイバイ!」


 いつも通りジャンに手を振って別れの挨拶をする。ジャンもいつも通りすぐに背を向けて歩きだすと思っていたが、この日は軽く手を上げてから去っていった。


(ジャンが手振ってくれた! いや、振ってはないけど。でも、『じゃっ』ってやってくれた!)


 チャコは嬉しくて大きな鼻歌を歌いながら帰宅していった。
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