ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
 チャコは吸い寄せられるように少年に近づいていく。その距離一メートル。つい先ほどまで近づくのが恐れ多いと思っていたはずなのに、今はもう近づかずにはいられなかった。


 そのまま美しい演奏に耳を傾ける。知らない曲だが、その旋律がどうしようもなくチャコの胸を締めつける。全身でその曲に浸っていたくて、チャコは目を閉じて少年の演奏を聴いていた。


 やがて音が止まり、チャコはそっとその目を開いた。二人の目が合う。少年はチャコを指さしたあとに、自分の目尻に指を持ってくると、そこから下に頬をなぞるように下ろしていった。

 チャコも同じようにして自分の頬に触れてみれば、そこが濡れているのに気づいた。泣いていたらしい。少年の演奏に感動して、涙をこぼしていたのだ。チャコは慌てて涙を拭うと、それをごまかすように少年に話しかけた。


「きれいだね、ギター。そのギターの音好き。ねー、近くで聴いててもいい?」


 少年は微笑むだけで何も言わなかった。だから、チャコはその微笑みを肯定と受け取り、一メートルの距離を保ったまま、少年の横に腰を下ろした。

 少年はその様子を黙って見ていたが、チャコが座るのを見届けたら、またすぐに演奏を始めた。
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