ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
3. 体で奏でるクリスマスソング
あれからチャコとジャンは毎週水曜と金曜を『Joy』で過ごすようになった。チャコたちがいるのは早い時間帯だから、あまり他の客と一緒になることはなかったが、それでも常連客と顔見知り程度の仲にはなっていた。
「あ、山さんだ! こんばんは!」
「こんばんは。チャコちゃんもすっかりここの住人だね」
山さん―――山寺俊三はここの常連で、あのセッションにも参加していた人だ。彼もジャンと同じくギター奏者だ。今日もギターを持ってきている。
「山さんのギターとジャンのギターってなんか違いますよね。私が最初にイメージしてたギターの音って山さんのやつなんですよね」
二人のギターは見た目に大きな違いはないものの音がまったく異なっていた。
「あー、そうだね。私のはフォークギターで、彼のはクラシックギターだからね。バンドや弾き語りだとフォークギターを見ることが多いんじゃないかな?」
「確かに、そうかもしれません。そっかー、ジャンのはクラシックギターっていうのか。あ、だからジャンが弾く曲は知らないのかな? クラシックなんて有名なのしか知らないし。ジャンは曲名教えてくれないしー」
恨みがましい目でジャンを見るとわざと顔を背けて知らん顔をしている。
「ははは。チャコちゃんに曲名教えてあげないの?」
山さんに言われてもジャンは無反応だ。
「曲名くらい教えてくれてもいいのに……あ、ねぇ、ジャン、あの曲弾いてよ! 私が一番好きなやつ。で、山さんその曲名教えてください!」
これは名案だとチャコは大きな声で提案した。
「私はいいけど、彼は乗り気じゃないみたいだね」
ジャンは眉間に皺を寄せている。
「なんでよ。いっつも弾いてくれるじゃんか……」
「あはは。彼はチャコちゃんだけに聴かせたいんじゃないかな?」
「へ? ジャン、そうなの?」
それはなんだかチャコがジャンの特別と言われているようで嬉しい。本当なのだろうかとジャンの様子を窺ってみれば、突然額に痛みが走った。
「いった!? もう何するの!」
ジャンがチャコにデコピンしてきたのだ。しかもチャコを見てニヤニヤとしている。自分も仕返ししてやろうかなんて気持ちが湧いたが、そんなことよりももっといいことを閃いてしまった。
「私が歌えばいいんじゃん! メロディーは覚えてるもん!」
もう何度も聴いているからそのメロディーを自分で口ずさむことができる。冴えている自分に感心していれば、ジャンがまた手を伸ばしてきた。またデコピンがくるのかと思えば、予想に反してその手は額ではなく口元にやってきた。
「っ!? んーっ! んんー!」
ジャンに手で口を塞がれてしまった。必死に剥がそうとしても力が強くて剥がれない。困っていれば山さんがジャンをたしなめてくれた。
「こらこら。女の子にそんなことしたらだめだよ。私からは言わないから自分で教えてあげなさい。きっと特別なんでしょう? ね?」
山さんの言葉にジャンは渋々と言った体で、ゆっくりその手をチャコから離した。
「あ、山さんだ! こんばんは!」
「こんばんは。チャコちゃんもすっかりここの住人だね」
山さん―――山寺俊三はここの常連で、あのセッションにも参加していた人だ。彼もジャンと同じくギター奏者だ。今日もギターを持ってきている。
「山さんのギターとジャンのギターってなんか違いますよね。私が最初にイメージしてたギターの音って山さんのやつなんですよね」
二人のギターは見た目に大きな違いはないものの音がまったく異なっていた。
「あー、そうだね。私のはフォークギターで、彼のはクラシックギターだからね。バンドや弾き語りだとフォークギターを見ることが多いんじゃないかな?」
「確かに、そうかもしれません。そっかー、ジャンのはクラシックギターっていうのか。あ、だからジャンが弾く曲は知らないのかな? クラシックなんて有名なのしか知らないし。ジャンは曲名教えてくれないしー」
恨みがましい目でジャンを見るとわざと顔を背けて知らん顔をしている。
「ははは。チャコちゃんに曲名教えてあげないの?」
山さんに言われてもジャンは無反応だ。
「曲名くらい教えてくれてもいいのに……あ、ねぇ、ジャン、あの曲弾いてよ! 私が一番好きなやつ。で、山さんその曲名教えてください!」
これは名案だとチャコは大きな声で提案した。
「私はいいけど、彼は乗り気じゃないみたいだね」
ジャンは眉間に皺を寄せている。
「なんでよ。いっつも弾いてくれるじゃんか……」
「あはは。彼はチャコちゃんだけに聴かせたいんじゃないかな?」
「へ? ジャン、そうなの?」
それはなんだかチャコがジャンの特別と言われているようで嬉しい。本当なのだろうかとジャンの様子を窺ってみれば、突然額に痛みが走った。
「いった!? もう何するの!」
ジャンがチャコにデコピンしてきたのだ。しかもチャコを見てニヤニヤとしている。自分も仕返ししてやろうかなんて気持ちが湧いたが、そんなことよりももっといいことを閃いてしまった。
「私が歌えばいいんじゃん! メロディーは覚えてるもん!」
もう何度も聴いているからそのメロディーを自分で口ずさむことができる。冴えている自分に感心していれば、ジャンがまた手を伸ばしてきた。またデコピンがくるのかと思えば、予想に反してその手は額ではなく口元にやってきた。
「っ!? んーっ! んんー!」
ジャンに手で口を塞がれてしまった。必死に剥がそうとしても力が強くて剥がれない。困っていれば山さんがジャンをたしなめてくれた。
「こらこら。女の子にそんなことしたらだめだよ。私からは言わないから自分で教えてあげなさい。きっと特別なんでしょう? ね?」
山さんの言葉にジャンは渋々と言った体で、ゆっくりその手をチャコから離した。