ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
向かった先は『Joy』だった。
「こんばんはー」
「お? いらっしゃい。この時間から来るのは珍しいな」
「ジャンに連れてこられて……あ、山さんと真澄さんだ! こんばんは!」
「「こんばんは」」
真澄さん―――川越真澄もあのときセッションしていた一人だ。真澄はバイオリンを弾いている。今日はセッションのある日だから集まっているのだろう。
「ん? なんだよ、ぼうず」
ジャンは店のカウンターにあったチラシを一枚取り、それをしげさんの顔にグイっと近づけた。
「参加する気になったのか?」
しげさんがその言葉を発したあと、ジャンはなぜかチャコをしげさんに向かって差し出した。
「え? 何? ジャン?」
「あ? チャコちゃんがどうしたんだよ?」
チャコは何が起きているのかさっぱりわからない。ただただ戸惑っているとジャンに肩をつかまれ、椅子に座らされた。ジャンも椅子に座るとギターを取りだし、そしてチャコの唇に触れてきた。二回トントンと叩かれる。歌っての合図だ。
「え? ここで?」
ジャンが『Joy』でそれを求めてくることは一度もなかったし、なんなら素人がここで歌ったりしてはだめなのかと思っていた。だから、突然歌ってと言われてもチャコは素直に応じられなかった。ジャンはそんなチャコの唇をもう一度叩いてくる。
「えー……あの、ジャンが歌えって……」
「は?」
しげさんに告げれば、怪訝な顔をしている。山さんも真澄も不思議そうな顔でこちらを見ている。チャコだって今の状況がよくわからない。でも、ジャンがここまで望むならやるしかないだろう。
「歌ってもいいですか?」
「あー……まあ、いいけど」
「ありがとうございます。ジャン、何歌うの?」
ジャンが曲のイントロを演奏しはじめた。それはここ最近河川敷で歌っていた曲だった。チャコの親世代の曲だが、母親がよく歌っていたからいつの間にかチャコも歌えるようになっていた。ちょっと切ない春の曲だ。
歌いはじめれば、そこはもう二人の世界だった。ジャンの音に自分の声を重ねる。いつもと違う場所だったけれど、チャコには関係なかった。ジャンの音があれば、二人は二人の音楽を奏でられた。
「こんばんはー」
「お? いらっしゃい。この時間から来るのは珍しいな」
「ジャンに連れてこられて……あ、山さんと真澄さんだ! こんばんは!」
「「こんばんは」」
真澄さん―――川越真澄もあのときセッションしていた一人だ。真澄はバイオリンを弾いている。今日はセッションのある日だから集まっているのだろう。
「ん? なんだよ、ぼうず」
ジャンは店のカウンターにあったチラシを一枚取り、それをしげさんの顔にグイっと近づけた。
「参加する気になったのか?」
しげさんがその言葉を発したあと、ジャンはなぜかチャコをしげさんに向かって差し出した。
「え? 何? ジャン?」
「あ? チャコちゃんがどうしたんだよ?」
チャコは何が起きているのかさっぱりわからない。ただただ戸惑っているとジャンに肩をつかまれ、椅子に座らされた。ジャンも椅子に座るとギターを取りだし、そしてチャコの唇に触れてきた。二回トントンと叩かれる。歌っての合図だ。
「え? ここで?」
ジャンが『Joy』でそれを求めてくることは一度もなかったし、なんなら素人がここで歌ったりしてはだめなのかと思っていた。だから、突然歌ってと言われてもチャコは素直に応じられなかった。ジャンはそんなチャコの唇をもう一度叩いてくる。
「えー……あの、ジャンが歌えって……」
「は?」
しげさんに告げれば、怪訝な顔をしている。山さんも真澄も不思議そうな顔でこちらを見ている。チャコだって今の状況がよくわからない。でも、ジャンがここまで望むならやるしかないだろう。
「歌ってもいいですか?」
「あー……まあ、いいけど」
「ありがとうございます。ジャン、何歌うの?」
ジャンが曲のイントロを演奏しはじめた。それはここ最近河川敷で歌っていた曲だった。チャコの親世代の曲だが、母親がよく歌っていたからいつの間にかチャコも歌えるようになっていた。ちょっと切ない春の曲だ。
歌いはじめれば、そこはもう二人の世界だった。ジャンの音に自分の声を重ねる。いつもと違う場所だったけれど、チャコには関係なかった。ジャンの音があれば、二人は二人の音楽を奏でられた。