ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~

4. 打ち上げ

 繋いだ手は駐車場についても離れなかった。山さんの前でも繋がれたままのそれに、さすがにチャコはいたたまれない気持ちになった。山さんがそれに気づいても何も言わないでいてくれることだけが救いだ。

 結局山さんの車に乗っている間もジャンはチャコの手を握ったままで、チャコは恥ずかしさのあまり、行きの車内とは打って変わって、帰りの車内では一言も話さなかった。



 『Joy』に到着して車を降りるとき、ようやく二人の手が離れた。チャコはそのことにほっと息をつき、落ち着きを取り戻してから『Joy』の中へと入っていった。店内には、しげさんが用意してくれた料理や飲み物がたくさん並んでいる。どれもこれもおいしそうだ。


「よし。それじゃあ、今日は皆ありがとう。お疲れさまでした。乾杯!」
「「乾杯!」」


 チャコはオレンジジュース、ジャンはジンジャーエール、他の皆はチャコの知らないお酒を持って乾杯をした。


「いやー、しかし、本当にいいステージだったな。若者と一緒だと張り合いが出ていいもんだな」
「本当にいい刺激になりました」


 しげさんと山さんが語らいはじめた。二人ともとても楽しげな表情をしている。


「チャコちゃんとぼうずはどうだった?」


 しげさんに問われて、チャコはあのステージで感じたことをそのまま言葉にした。


「夢みたいでした。音に身体がびりびりして痺れてるみたいで。でもそれが気持ちよくて。自分たちの音が周りに届いていくのも楽しくて。終わってしまうのが寂しいって思いました。すごくすごく楽しかったです!」
「そうか。楽しんでくれてよかった。またいつか一緒にやろうな!」


 しげさんのその言葉が嬉しくて、チャコは元気よく「はい!」と返事をした。


「ぼうずはどうだった?」


 ジャンはしげさんに真っ直ぐ目を向けると、何も言わずに深く頭を下げた。


「ははっ。それは礼か? ま、礼の言うのはこっちだよ。チャコちゃんもぼうずもありがとな」


 チャコもジャンもしげさんにワシワシと頭を撫でられた。それがおかしくてチャコは声を上げて思いきり笑い、ジャンは少し煩わしそうにしながらも少しだけその顔に笑みを浮かべていた。
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