ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
 そして迎えた夏祭り当日。チャコは浴衣を着て今日の決戦に挑んでいた。

 待ち合わせ場所に指定した駅前でジャンを一人待つ。ジャンがどちらから来るかわからないから、人が通るたびにそわそわとしてしまう。

 けれど、待ち合わせの時間になってもジャンは現れない。五分が過ぎ、十分が過ぎ、そして三十分が過ぎてもジャンの姿は見当たらない。それでも諦められなくてじっと待っていれば、見知った顔がチャコの正面から歩いてきた。


「あれ? チャコじゃん」
「航平……」


 やってきたのは航平だった。


「なんだよ。河内たち受験だから夏祭り行かないって言ってたじゃん」
「うん……」


 行かないと言っていたから少し気まずくて、チャコは小さな声で返事をした。


「あいつら待ってんの?」
「いや……」
「あー、一人で来たのか? じゃあ、俺が一緒に行ってやるよ」


 早く来いというような仕草をする航平にチャコは戸惑った。本当に一人ならばついていったかもしれないが、今日は大事な約束をしているのだ。


「……いや、いい。待ち合わせしてるから」
「やっぱ待ち合わせしてんじゃん。じゃあ、あいつら来るまで俺もここにいる」
「は!? なんで」


 航平の言葉にチャコは慌てた。待ち合わせ相手は恵たちではないのだ。事情を知らない航平に邪魔をされたくはなかった。


「別にいいだろ」
「よくない……航平も誰かと来てるんじゃないの? 行ってよ」
「あとで合流するからいい」


 航平はその場を動こうとしない。


「いいから、行ってよ……恵たち待ってるわけじゃないし……」
「じゃあ、誰待ってるんだよ……まさか」


 航平は急に不機嫌な顔になって、絶対に動かないと言いだした。頑なな航平にチャコはどうすればいいのかわからない。いくら友人とはいえ、これから告白をするなんて話は男子ににはしづらい。結局ずっと同じ押し問答を繰り返すばかりで、航平はチャコのそばを離れなかった。

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