ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
「本当に待ち合わせしてんのかよ。来ねえじゃねぇか」


 航平が現れてからすでに三十分が経過していた。


「航平はもう行ってよ。私のことは気にしないで」
「なんだよ、それ。やっぱお前は俺と来い」


 航平に強く手首をつかまれ、そのまま引っ張られる。


「ちょっ!? 航平、離してっ!」


 航平の手を振り解こうと踏ん張ったところで、反対の手がつかまれて、チャコは驚き振り返った。


「っ!? ……ジャン」


 キャップを目深にかぶっているがすぐにジャンだとわかった。

 ジャンの登場に驚いたのか、チャコの手首をつかんでいた航平の手が緩む。その瞬間、ジャンがグイっとチャコの手を引いたから、チャコはジャンの胸にもたれかかるような形になった。

 ジャンはチャコをしっかりと抱きとめ支えると、すぐにチャコの手を引いて歩きだした。後ろから航平が何か言うのが聞こえたが、ジャンがずんずん歩いていくから、意識が逸れて何を言っているのかまでは聞き取れなかった。
< 70 / 185 >

この作品をシェア

pagetop