ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
「あ、夏祭りの音聞こえる。そっか。ここ結構近いんだね。知らなかったや」


 夏祭り会場から微かに盆踊りの曲が聞こえてくる。きっと会場は大勢の客で賑わっていることだろう。本当はジャンと二人でいろいろ見てまわりたい気持ちもあったのだが、彼が来てくれただけでチャコはもう十分嬉しかった。


「ジャン。来てくれてありがとう。嬉しい」


 ジャンは少しだけ申し訳なさそうな顔をしつつも、その顔に笑みを浮かべてくれた。


「ねー、浴衣どう? 似合ってる?」


 チャコはその場で一周まわってみせる。それを見たジャンはチャコと目を合わせるとはっきり頷いてくれた。滅多に見せてくれないその仕草にチャコの胸は高鳴る。嬉しくて締まりのない顔を披露すれば、ジャンにそっと引き寄せられ、そして、優しい手つきでまた頭を撫でられた。チャコは目を閉じてその感触を味わう。


「ふふっ。ジャンに頭撫でられるとね、ドキドキするけどすごく嬉しい」


 素直に思ったことを口にした直後、ジャンの手が離れていくのがわかって目を開けてみれば、なぜかジャンはチャコに背を向けてうずくまっていた。


「ジャン?」


 チャコの呼びかけにも答えず、どうしたものかと思っていたら、ジャンはチャコのほうを振り向いて、にっと笑ってみせた。そして、背負っていたギターケースを下ろすと中からギターを取りだし、その場に座ってギターを奏ではじめた。
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