ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
「ギター弾かないの?」


 チャコの手を握ったまま動かないジャンにそう尋ねてみれば、繋いだ手が離れていく。そのままギターに向かうと思ったそれはなぜかチャコの頭へやってきて、そのまま優しく撫でられた。チャコを見つめたまま繰り返されるそれにチャコはどぎまぎしてしまう。


(こんなことされたらもっと好きになる……)


 振られたのは夢で、本当はジャンの彼女になったんじゃないかと勘違いしてしまいそうなくらいジャンの空気が甘い。今までにも頭を撫でられたことは何度もあるが、ジャンの表情がもっとずっと優しくて、チャコに触れる手つきもどことなく違うのだ。ジャンの想いが伝わってくるような気がして、チャコは自然とその言葉を口にしていた。


「ジャン、大好き」


 ジャンはより一層柔らかな微笑みを浮かべてチャコに触れてくる。そのまましばらく見つめあって、ジャンから与えられる感触を楽しんでいれば、あまりの心地よさに瞼が落ちそうになってくる。チャコがうとうとしはじめると軽くポンポンっとされてから、ジャンの手が離れていった。


 そのまま夢見心地でジャンを見ていれば、ジャンはギターを取りだし、チャコの好きな曲を奏ではじめた。最初の演奏以来、それを聴いても泣くことはなかったのに、この日はジャンとの触れあいで心がオープンになっていたせいか、チャコは久しぶりにジャンの演奏に涙を流していた。


 ジャンがその涙を優しく拭ってくれる。それが嬉しくて、後を追うようにもうひとしずくだけ涙がこぼれ落ちた。


「ふふっ。ありがとう、ジャン」


 そのあとはいつも通りに時間が流れた。ジャンの演奏を聴いて、求められては歌って、何も変わらないその時間がチャコはとても愛しかった。
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