ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
 校舎を出たチャコは自転車に乗るとマッハで河川敷へと走っていった。いつもは十分くらいかかる距離を倍のスピードで漕いでいく。今は九月だが、秋と呼ぶにはまだまだ暑い日が多くて、チャコはすっかり汗だくになっていた。


「あー! いたっ!」


 河川敷に到着すれば、一昨日と同じくギターを弾く少年の姿がそこにはあった。自転車を止め、この間と同じように一メートルくらい離れたところに座ってみる。



「ねー、昨日いなかったじゃん」


 演奏が終わるのを待って話しかけてみたけれど、少年は何も話さない。軽く微笑むだけで、すぐに演奏を再開してしまった。適当にあしらわれているようで少し面白くなかったが、それでも少年のギターの音色を聴いていれば、そんな気持ちもすっかり消え失せてしまった。
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