ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
 最初の音が期待通りに響いてくる。ゆったりと流れてくるその旋律はやはりとても心地いい。耳なじみのある優しい音がする。ジャンが一人で弾いているはずなのに、そこには調和が生まれていて、やはりもうそれだけで完成された音楽になっている。欲しいところに欲しい音が存在しているようなそんな感覚があって、いつまでもその音楽を聴いていたくなる。

 その曲が終わるころにはとても満ち足りた気持ちになっていたが、それでもまだ繰り返し聴いていたかった。


「やっぱりジャンのギターで聴くとすごくきれい。もう大好き。ずっとずっと聴いてたい。もっかい弾いてよ」


 そう発した直後に唇をトントンと叩かれて、チャコはとても驚いた。


「え? 歌うの? カノンを? え、歌なんてあるっけ?」


 チャコが戸惑っていれば、もう一度唇を叩かれる。


「え、本当に知らないんだけど……メロディーなぞればいい?」


 ジャンを見れば微笑んでいるからそれでいいらしい。


「わかった。でも、全部覚えてるわけじゃないし、間違っても怒らないでね?」


 ジャンは少しだけおかしそうに微笑んでから、先ほどと同じ曲を奏ではじめた。チャコもそれに合わせて声を乗せてみる。ジャンのギターに合わせて歌うのは初めてではないのに、いつもと少しだけ違う感覚がチャコの中に生まれていた。

 音を合わせるのが心地いいのは変わらない。でも、このときはそれ以上に自然と声を引きだされるような不思議な感覚にとらわれた。メロディーのわからないところを手探りで歌っているからかもしれない。チャコはもっと感覚を研ぎ澄ませようと目を閉じてジャンの音に耳を傾けた。ジャンのギターから安定した音が流れてくると音を置きたい場所が自然とわかる。チャコは気づけば、自分も知らない旋律をその声で奏でていた。

< 84 / 185 >

この作品をシェア

pagetop