あの日、桜のキミに恋をした
その日も、分娩室には元気な産声が響き渡った。


「おめでとうございます!元気な女の子ですよー!」


赤ちゃんの顔に付いた羊水や血液をさっと拭き取ってあげてから、一度お母さんに会わせてあげる。


「赤ちゃん綺麗にしてからまたママの所に連れてきますね」


そしてすぐにまた赤ちゃんを預かって、計測や全身状態の確認をしている間にお母さんは胎盤を出して傷の処置を行う。


程度によって差はあるけど、早くて15分〜30分くらいでまた赤ちゃんとゆっくり触れ合うことができる。


これでやっと《《少し》》安心できる。


ここまではお母さんも赤ちゃんもいつ急変してもおかしくないからだ。


もっと言うとお母さんたちが部屋に戻るまでは気が抜けないし、出産の当日は落ち着けない。


1日後でも、5日後でも完全に安心はできないのだ。


正直1ヶ月後の健診で順調なことを確認できてからようやく「大丈夫そうかな」と思えるくらいだ。


今日はちょうどタイミングの良いところで夜勤者に引き継ぐことができ、私はロッカーでひと息ついた。
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